ぼくが教師になった理由
梅竹松
第1話 小学校の教師になった
ぼくの名前は
教師になりたいと思うようになったのは中学生の頃。隣の家に住んでいた10歳ほど年上のお姉さんに優しくしてもらったことが関係している。
彼女がいなければ、ぼくは教師になりたいなんて思わなかっただろう。
彼女と過ごしたのは小学校低学年の頃の話だが、その時の出来事は今でも鮮明に覚えていた。
今から15年以上前のこと。
ぼくが小学一年生だった頃、隣の家に高校二年生のお姉さんが住んでいた。
そのお姉さんの名前は
そんな人柄だからか、当時は引っ込み思案で泣き虫だったぼくのことを常に気にかけてくれていた。
休日に遊び相手になってもらったり、勉強を教えてもらったり、とにかく彼女との思い出はたくさん存在する。
その中でも特に記憶に残っている出来事は、公園などでぼくが他の子どもたちからいじめられている時に助けてくれたことだ。
まさに彼女はぼくにとってあこがれのお姉さんであり、ぼくは「あや姉」と呼んで本当の姉のように慕っていた。
だけど、その当時あや姉は高校二年生。いつまでも一緒にはいられない。
あや姉が受験生になった年から徐々に会う機会は減り、ぼくが小学三年生になる頃には彼女は大学進学で上京してしまったのだ。
当時、ぼくはあや姉と離れ離れになるのが嫌で大泣きしたことを覚えている。
あや姉にも将来があるとわかってはいても、そう簡単に仕方ないと割り切ることはできなかったのだ。
だから最後まで「行かないでほしい」と願っていたのだが……そんな願いが叶うはずもなく、あや姉は東京で一人暮らしを始めてしまうのだった。
こうしてあや姉のいない生活が始まったわけだけど、彼女は毎年二回は実家に帰ってきた。
具体的にはお盆と年末年始の数日間。
あや姉に会えるのは素直に嬉しかったが、大学生になって一人暮らしを始めた影響かすっかり大人っぽくなっていた。
それは本来は良い変化なのだろうが、どんどんぼくの知らないあや姉になってゆくのは少し寂しいことだった。
そうして四年の月日が流れ、ぼくが中学一年生になる頃、あや姉は大学を卒業して社会人となった。
どうやら都会の会社で内定をもらったらしい。
あや姉は大学を卒業しても地元には戻ってこなかった。
だけど、その頃にはぼくもだいぶ大人になっていたため、そこまで寂しいとは感じなくなっていた。
引っ込み思案で泣き虫な性格も改善されていたし、何より勉強に部活に友達付き合いに大忙しで、あこがれのお姉さんがいなくてもそれなりに楽しい毎日を過ごせていたことが最大の理由だろう。
もちろん彼女のことを忘れたわけではない。
中学生になってもあや姉はぼくにとってあこがれの存在だったし、彼女ような立派な大人になりたいと考えるようにもなっていた。
だから教師を目指すことにしたのだ。
あや姉みたいな大人になりたい。子どもたちから頼りにされるような存在でありたい。それが教師を目指すことにした理由だった。
その夢を実現するため、ぼくは中学三年間で必死に勉強した。
最初の目標はあや姉と同じ大学に行くこと。
あや姉はとっくに卒業してしまっているが、あの大学は国内でも有名だし教職課程もあるため、教員免許を取得するにはぴったりだと思ったのだ。
また、あや姉と同じ街で暮らせば時々は会えるかもしれないとひそかに期待もしていた。
そうして一生懸命勉強した成果が出たのか、県内でもトップクラスに偏差値の高い高校に合格。
夢の実現に一歩近づいたのだった。
だけど高校に進学する頃、あや姉はぼくの知らない男性と結婚した。
その男性とは、どうやら職場で知り合ったらしい。
職場で出会って二年ほど交際を続け、ぼくが高校に入学した年にめでたく
その事実を聞かされた時、ぼくは落ち込んでしまった。
子どもの頃にお世話になったあや姉が結婚したのだから幸せを願うべきと頭では理解していても、すぐには現実を受け止めることができず、しばらくは「夢だったらいいのに」と考えていた。
ずっとあこがれていたお姉さんが結婚したという事実はそれほどにショックだったのだ。
でも、昔のようにいつまでも落ち込んだままということはなかった。
たとえ結婚していても彼女はぼくにとってあこがれの存在だし、彼女のような立派な大人になりたいという気持ちも変わらない。
ぼくは理想の教師となるため、高校でも勉学に励んで着実に成績を伸ばしてゆき、ついにあや姉と同じ大学に進学することができた。
もちろん大学でも勉強に専念し、見事教員免許を取得。
大学卒業後には近くの小学校で教師として働くことになったのだった。
そして、現在。
ぼくは一年生のクラスの担任を任されたのだが、クラス名簿を見て驚愕することになる。
なんと、名簿にあや姉の娘の名前があったのだ。
だいぶ前にあや姉が娘を産んだことは知っていたし、そろそろ小学生になる年齢だということもわかってはいたが、まさか自分の受け持つクラスに振り分けられると思わなかった。
というか、そもそも自分の働く小学校に入学してきたこと自体驚きだ。
しかも、あや姉の娘はかなり人見知りな性格で、自己主張が苦手だと聞いている。
きっとクラスに馴染むのに時間がかかるだろう。
子どもの頃の自分と少し似ているような気がした。
もしもあや姉の娘がクラスでいじめられたり仲間はずれにされるのなら、放ってはおけない。
かつてあや姉はぼくをいじめっ子たちから守ってくれた。
だから今度はぼくが彼女の娘をそうした行為から守るべきだろう。
もちろん他にクラスに馴染めない子がいたり勉強についていけない子がいた場合は、決して見捨てず全力で問題解決に努めるつもりだ。
ずっとあこがれていたあや姉に少しでも近づきたい。
子どもたちから頼りにされるような大人になりたい。
その気持ちは今でも変わっていないのだ。
そしていつか授業参観などであや姉が学校に来た時に、教師として成長した姿を彼女に見てもらい、「立派な大人になったね」と言ってもらいたい。
それが今の夢だった。
そんな日を夢見て、ぼくは今日も小学校の教壇に立つ。
まだまだ新米教師だけど、自信だけは満ちあふれていた。
ぼくが教師になった理由 梅竹松 @78152387
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