球形の星の迎え人

@1281kouann

第1話 再び転移者

地球の時間では5年前、僕の星では時代の転換期の始まりだった。王政軍と

反王政軍の争いが少しずつ起こり始めて、お父さんとのひもじい生活だったのは

覚えている。

でも、何でこの世界に来たのかは全然思い出せない。

「カイ君、カイ君カイ君カイくーーーん」

「はっ、はい。どうしたんですか?」

僕は急な声かけに驚き、味噌汁を混ぜていたお玉を浸水させた事を隠しながら返事を

する。

「カイ君ってば、またぼーっとしちゃって。お疲れだね」

「いや、そんな事ないですよ。春休みもゆっくり休めましたし」

そんな会話を奈央さんとしていると、まだ、眠たそうなあくびをしながら裕二さんが

リビングに入ってきて、

「おはよーっ・・・あれ?優奈は?まだ起きてないの?」

奈央さんがはぁーっとため息をしたあと、裕二さんに話しかける。

「ちょっとあなた、優奈を起こしてきて」

「えーっ、俺もう座っちゃったよ」

「ホント、あなたの腰の重さは大仏並みね」

嫌味を言った奈央さんは二階に行こうとする。僕はそんな優奈さんを止めて言った。

「僕が起こして来ますよ」

「ホント、カイ君はやさしい子ね。それに比べて、この家の大仏様は・・・」

「俺はなんと言われようと立たないぞ。有事以外はな。裕二だけに」

そんな日課のダジャレで1人笑っている裕二さんをスルーした奈央さんに頼まれた僕は二階へ行き、優奈の部屋の前に立ちノックをする。

「優奈、ご飯だよー」いつも通り返事がない。

「開けるよー」ドアを開けると、何とかバランスを保ち、天地がひっくり返りそうな

姿勢でベットから落ちずにいる優奈の姿がそこにはあった。

「あと、5分だけ・・・・」

「ダメだよ。今日から新学期、もう休みじゃないんだよ」

「ううぅ・・・・」

辛そうな声を上げながら僕の話を布団をかぶり、シャットアウトした優奈を見て僕は強行突破する事を決意する。

布団を思いっきり引っ張り、布団引き勝負開始。

「なんでぇぇぇ、そんなことすんのよーーー」

「遅刻しそうだからだよ。ほっとくと」

「大丈夫だってぇぇぇ、中学校無遅刻無欠席だったんだからーーー」

「僕がこうやって叩き起こしたお陰だろーーっ。毎日毎日いつも同じことの繰り返し

 リピートしすぎだろー」

一階から笑い声が聞こえてくる。もはやルーティンになっているこの布団引き勝負

を微笑ましく見ている2人が呑気で羨ましい。

「初日で皆勤賞は消えたな」

「はっ・・・」

一瞬の隙を突かれた優奈は布団ごとベットから引きずり下ろされた。

「行くよ」そう言って僕が部屋を去った後、

おそらく優奈は僕に殺意の眼を向けて来たことだろう。

ルーティンだから気にしないけど・・・

朝ご飯を食べ終えた僕は待ち合わせがあるので早めに家を出ようと思い、忘れ物がないか確認する。

優奈は寝起きのせいか食べるのが遅く、今は歯ブラシとクシを同時に使いつつ、

足で靴下を履いている。

確認を終え、奈央さんが今日の為に買ってくれた新品の靴を履いていると、

奈央さんが「気をつけてね。何かあったら連絡してね」と言ってきた。

裕二さんも出勤時間なのか、玄関にやって来た。

奈央さんがいつも通り笑顔で僕と裕二さんに言った。

「いってらっしゃい」

扉を閉めた僕に向かって、車越しに裕二さんがキメ顔で手を振って来たので

真似をするとくすくす笑って出ていった。

通学路を歩いていると可愛い小学生達が集団で登校していた。

中学校からの友達、和樹と未來との待ち合わせ場所に行く。

こうしていると、中学校の初日を思い出して胸がじんわり熱くなる。

待ち合わせの文房具店の前に行くと、和樹がすでに待っていた。

「おはよう。まだ未來は来てねよ」

「まぁ、まだ早いからね」

「あいつ中学の時から朝が弱いからな。遅かったら先に行こうぜ」

時間があったので僕と和樹はゲームをしながら未來を待った。

「よっしゃー。また俺の勝ち。おつー。ゲームの下位君」

「もう一回、チャンスを恵んで」

「しょうがないなーカイ君は。俺のスポーツマンシップに則り、再戦を許可しよう」

「今度は負けないからなーっ」

こんな時僕は転移者だということを忘れてしまう。今は楽しくてしょうがない・・・

「はい、初歩的なミスー。これで6敗だな」

「くっ・・・」

「あっLING来てたわ。先に行っといてだって。行くかー」

「うん」

僕たちが歩き出した瞬間、空に歪みが発生し、身に覚えのあるロゴが入った城が現れた。それは僕の故郷であるサファリング星のものだった。




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