第2話 年金でゲーム買うのか? 前編
孫の彼女…いや、孫の同級生に連れられて国道56号線のおもちゃ屋の前にいる。
「ここは、不良が来るところだろ。」
広俊は、明らかにヤバイ場所という認識だ。しかし、
「ここが、ヤバイなら道後の裏手なんてもっとヤバイってお母さん、言ってたよ。」
なんというハレンチな小娘じゃ。あそこは、大人の風呂場だろ。知らない人は、道後、裏路地街で調べてください。自己責任で。
「さあ、おじいさん、入るわよ。」
愛に手を引っ張られて店に入った。そこには、まさに米帝の巣窟とような洋風なおもちゃ屋だ。電車は店の中を走り回り、テレビには、破壊、暴力、性的な刺激を誘う映像が。さらにいいとしこいたおっさんが、昼間からコーヒー飲みながら、パチンコやスロットをしている!
「ここは、メリケンの洗脳施設だ。出るぞ!」
目がチカチカして頭がおかしくなりそうなので広俊は、出ようとした!
「ふーん、誠くんが、不登校になってもいいんだ?」
これを予知していたかのように冷ややかな目でわしを見る小娘!
「なんで、誠が不登校になるんじゃ!あの子は、元気に学校行っとるし、お前みたいな不良娘ではない!」
不良娘というが、あんたも二十歳前にタバコ吹かして酒を飲んでいたので立派?な、不良だろ。
「知らないんだ。誠くん、学校でゲームの話ができないからハブられそうになっててしんどそうだよ。」
なんだと、あんなに元気そうに行ってるのに。そういえば、NHKでいきなり不登校になる子供が増えているって。まさか!
「お前、いい加減なことを言うな!誠は、不登校になんかならん。訳の分からんこというと実家に送り返すぞ!」
もはや、いつもの平静な広俊は、いない。逆ギレジジイだ。
「勝手にしたら。でも、私は、誠くん好きだからおじいさんをここに連れてきたんだよ。」
「何だと?」
ジジイ、いや、広俊は、目を丸くした。誠が好き?わしを連れてきた?もはや、頭が血圧で爆発しそうだ。
「わしを連れてきた?それが誠の不登校となんの関係がある?」
怒りに任せて小娘を怒鳴った!
「まあ、カッカせず。簡単なことよ。今時、ゲームのひとつもできないで生活してる子供なんていないわよ。だから、誠くんは、苦しんでいる。なら、買ってあげたらいいのよ。」
は!わしは、思い出した。数年前に誠がゲームを買おうとしたとき、
「バカになるからするなと!」
怒鳴ったことがあった。息子夫婦もそれを見てゲームを買うのを諦めた。だが、それがなんだ!ゲームなんてしたら頭がおかしくなる。
「おじいさん?ゲーム=バカとか思ってるでしょ。けどね、そんなこと言ってるよ認知症になるよ。」
「認知症?ふざけるな。あんな腑抜けた老害になんかなるか!」
認知症には、なってないが、かなり迷惑な老人にはなっているように見えるが。
「まあ、いいのよ。おじいさんが認知症かどうかは。誠くんが、困っているのは確かだよ。」
確かに思い返せば、困っている状態だ。だが、どうしたらいい…
「考え込むのはいいけどゲームくらい買ってあげなよ。一緒にしたら楽しいよ。」
孫とゲーム?オセロならしたが、でも、誠は、退屈そうにしてたぞ。
「おじいさん、ゲームもできない人なんて今は、化石や原始人扱いだよ…早く、昭和から脱出しないと…」
化石!原始人!昭和!わしは、まだまだ、イケてるぞ!
すでにズボンすらまともに見つけられないくらいにイケてないのに…
「まあ、ここにスーパーファミコンあるから買ったら?今なら、ソフトを買ったら4000円割引だから。」
指を指した先にセールストークが書いてあった。
スーパー髭!やったことないひともアクションゲーム!髭で遊ぼう!今ならスーパーファミコンが4000円安くなるクーポン券付き!
なんで髭!配管工?というか、あんなつなぎないだろ。赤なんて!緑もあるぞ!というか、なぜ、キノコ食ってるだ?というか価格!
「はあ!本体が25000円!」
わしの年金が10万だぞ。その4分の1だぞ。
「おじいさん、ソフトも買わないと。」
そういえば、本体だけでなく、ソフトも買わんと…
「なに!ソフトは9000円!わしの保険料と同じ額だぞ!」
広俊は、目を丸くして財布を見た。わびしい夏目漱石が三枚あるだけ…
「おじいさん、お金ないの?」
小娘は、わしを貧乏人みたいな目で見ていた。
「ちょっと待て!金をおろしてくる!」
金のないジジイはおもちゃ屋の向かいの農協に向かった。
「ああ、広俊さん、こんにちは。」
ここの支店長は、わしの元部下だ。わしは、30年農協で働いていた。しかも、松山の一番いい店の支店長だ。そのときの部下がこいつだ。
「どうしたんですか?息を荒げて?」
広俊は、ぜえぜえ言いながらいきなり、
「このカードから五万出せ!」
キャッシュカードを支店長に向けて怒鳴った!
「広俊さん、オレオレ詐欺ですか?落ち着いてください!」
支店長は、ビックリして広俊を落ち着かせようとし、受付の女性は警察を呼ぼうとした。
「バカもーーーん!わしは、正常だ!ゲーム買うから金よこせ!」
もはや、オレオレ詐欺よりもヤバイジジイである。というか、強盗に近い。
「えええ!広俊さん、ゲームやるんですか?あれだけゲームなんてするかと言ってたのに。」
「あれは、パソコンだろ!あんなカチカチするもんなんか使えるか!」
ゲームもポチポチだから変わらないような。
「わかりました。五万円おろしますね。」
支店長は、隣の女の子から事情を聞いていたのですぐにお金をおろした。
「どうぞ。」
福沢諭吉が五枚出てきた。
「ありがとう!」
広俊は、鷲掴みにしておもちゃ屋に、戻っていった。
愛は、支店長と受付の女性にお辞儀しておもちゃに走っていった。
果たして広俊は、ゲームを買えるのか?後編に続く。
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