第2話
これは、少し過去に遡ったお話。
遥ちゃんがまだ3歳だった頃のことだ。
暮らしてる家は変わらず、遥ちゃんは両親と一緒に暮らしてる。
お父さんの健一さんは印刷会社で働いてて、お母さんの美咲さんは雑貨店のパートをしてる。
共働きだけど、夜は家族3人でご飯を食べて、週末には公園で遊ぶのがお決まりなんだ。
さて、その日は特別な日。
リビングには、木のテーブルが置かれていて、窓から入る昼間の光が部屋を明るくしてる。
壁には家族の写真が飾られてて、笑顔の3人がこっちを見て微笑んでる。
ソファにはクッションが転がってて、一つには小さなハートの刺繍がある。
床は木目調で、少し傷がついてるけど、それが逆に温かい感じだ。
窓のそばには小さな棚があって、ハーブの植木鉢が並んでる。
ちょっと伸びすぎてる緑が、誰かが大事にしてる証拠みたい。
テーブルの上には、色とりどりの紙とリボンが散らばってて、何か楽しい準備の後みたいだ。
そこに、玄関のドアがガチャッと開く音が響いた。
「おーい、遥! おばあちゃんが来たぞー!」
健一さんの元気な声が聞こえてきて、リビングに顔を出す。
スーツ姿で紙袋を手に持ってて、ニコニコしてる。
「お父さん! おばあちゃん!」
遥ちゃんが目を輝かせて、ソファから飛び降りてくる。
ドアの向こうから、白髪の優しそうな女性が現れる。
おばあちゃんは茶色のコートを着てて、手には大きな包みを持ってる。
「遥ちゃん、お誕生日おめでとうね。もう3歳だなんて、大きくなったなぁ」
おばあちゃんがしゃがんで、遥ちゃんをぎゅっと抱きしめる。
「ありがとう、おばあちゃん! それ、何?」
遥ちゃんが包みを指差して、ワクワクした顔で聞く。
「これはね、遥ちゃんへのプレゼントだよ。開けてごらん」
おばあちゃんが包みを渡すと、遥ちゃんは栗色の髪を揺らして紙を破く。
中から出てきたのは、茶色のクマのぬいぐるみ。
耳がちょっと擦り切れてて、優しい目がこっちを見てる。
「わぁ、クマさんだ! 可愛い!」
遥ちゃんが大喜びで、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
その瞬間、僕の心が動き出した。
遥ちゃんの小さな手が僕に触れて、温かい気持ちがじわっと広がる。
そう、僕だよ。
この日から、僕が遥ちゃんのそばにいることになったんだ。
「おお、いいプレゼントだな。遥、大事にするんだぞ」
健一さんが笑いながら、遥ちゃんの肩をポンと叩く。
「うん、大事にする! ねえ、お母さん、見て見て! クマさんだよ!」
遥ちゃんがキッチンに走って、美咲さんに僕を見せる。
美咲さんはエプロン姿で、手にケーキのクリームがついてる。
「可愛いねぇ。ちょっと寂しそうだから、マフラーでも編んであげようか?」
美咲さんが目を細めて、僕を見て微笑む。
「マフラー! やったー! お母さん、作って作って!」
遥ちゃんが飛び跳ねて喜ぶと、美咲さんが「はいはい、分かったわ」と笑う。
「ケーキももうすぐできるから、みんなで食べようね」
美咲さんがキッチンに戻りながら言うと、遥ちゃんが「やったー!」と手を叩く。
その日の夕方、家族みんなでテーブルを囲む。
ケーキには3本のロウソクが立ってて、遥ちゃんが「ふーっ!」って吹き消す。
「お誕生日おめでとう、遥!」
健一さんとおばあちゃんが拍手して、美咲さんがケーキを切り分ける。
「ねえ、このケーキ美味しい! お母さん、すごいね!」
遥ちゃんがケーキを頬張りながら、目をキラキラさせる。
「遥が喜んでくれるなら、お母さん、頑張った甲斐があるよ」
美咲さんが笑って、健一さんが「俺も一口もらおうかな」と手を伸ばす。
「お父さんも、ちゃんと自分の分食べてよ!」
遥ちゃんがそう言うと、みんながクスクスと笑い合う。
その楽しそうな声が、部屋中に響いてる。
「ねえ、お父さん!このクマさん、名前つけたいな」
遥ちゃんが僕を膝に置いて、スプーンを持ったまま言った。
「おお、いいね。どんな名前がいい?」
健一さんがケーキを口に入れながら、楽しそうに聞く。
「うーん……くまちゃん! 可愛いでしょ?」
遥ちゃんがニコッと笑って、僕をぎゅっと抱きしめる。
「くまちゃんか、いい名前だ。気に入ったみたいだな」
健一さんが笑って、おばあちゃんも「うふふ、ぴったりね」と頷く。
「遥ちゃんが喜んでくれて、おばあちゃん嬉しいよ。くまちゃん、遥ちゃんをよろしくね」
おばあちゃんが僕を見て、優しく呟く。
その言葉が、僕の心にじんわり響いてくる。
夜になると、遥ちゃんはパジャマに着替えて、二階の自分の部屋に戻る。
淡いピンクのカーテンが揺れてて、窓から月明かりが入ってる。
小さなベッドに黄色い花柄の布団があって、遥ちゃんが僕を優しく手に持つ。
「ねえ、くまちゃん。今日、すっごく楽しかったよ」
遥ちゃんが僕を膝に置いて、小さな声で話しかけてくる。
「おばあちゃんに会えて、ケーキ食べて、お父さんとお母さんも笑ってて……幸せだなぁ」
彼女の指が、僕の頭をそっと撫でる。
僕はその温かさを感じながら、心の中で思う。
遥ちゃん、僕も嬉しいよ。
君の笑顔が、僕の心に灯りをともしてくれたみたいだ。
「お母さんがね、マフラー作ってくれるって。楽しみだね、くまちゃん」
遥ちゃんが僕をぎゅっと抱きしめて、布団に潜り込む。
「お父さんが『大事にするんだぞ』って言ってたから、私、くまちゃん大事にするよ。これからも、ずっと一緒にいようね」
そう言うと、遥ちゃんの声が、少し眠そうになる。
彼女の小さな手が僕を包んで、だんだん息が整っていく。
部屋が静かになって、月明かりが僕たちを優しく照らす。
その時、ドアがそっと開いて、美咲さんが入ってくる。
「遥、もう寝たかな?」
小さな声で呟いて、遥ちゃんの頭を撫でる。
美咲さんの手には、小さな赤いマフラーがある。
そっと僕に巻いてくれて、彼女が微笑む。
「くまちゃん、遥をよろしくね。私からも、お願い」
美咲さんが部屋を出ていくと、マフラーの温かさが僕に染みてくる。
遥ちゃんの寝息が聞こえて、なんだか安心するな。
僕は、くまちゃんとして、ここにいるんだ。
おばあちゃんの愛と、健一さん美咲さんの優しさが、僕を遥ちゃんのそばに連れてきてくれた。
この日から、遥ちゃんの「親友」になったんだ。
明日も、彼女のそばでどんな笑顔が見られるかな。
マフラーを巻いた僕と、遥ちゃんの楽しい毎日が、これからどんな風に広がっていくんだろうね。
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