孤独な少女と小さな守護者

(仮)

第1話 

東京郊外の小さな一軒家。


その二階にある部屋は、淡いピンクのカーテンが揺れ、窓から差し込む夕陽が壁を優しく染めている。


部屋の中には、木製の小さな机と、そこに置かれた色鉛筆が散らばったスケッチブック。


壁には、丸っこい字で書かれた「おかあさんへ」と書かれた手紙がピンで留められている。


机の横には、白い本棚があって、絵本や動物の図鑑がぎっしり詰まっている。


床にはふわふわの水色ラグが敷かれていて、小さな足跡が残るくらい柔らかい。


部屋の真ん中には、シングルサイズのベッドがあって、黄色い花柄の布団が少し乱れている。


枕元には、小さなランプがあって、夜になるとオレンジ色の光を放っている。


そこに、少女がいる。


肩まで伸びた栗色の髪が、ちょっとウェーブしながら揺れて、動きに合わせて光が反射する。


大きな焦げ茶色の瞳が、キラキラしながら部屋の中を見回している。


白いワンピースに薄いグレーのカーディガンを羽織っていて、素足でラグの上をぴょんぴょん跳ねてる。


5歳の彼女は、まるで絵本から飛び出してきたみたいだ。


「お母さん、まだかなぁ?」


少女が小さく呟いて、窓の方を覗き込む。


外では、夕陽が家の屋根に隠れそうになっていて、オレンジと紫が混ざった空が広がっている。


彼女は窓辺に立つと、小さな指でカーテンをそっと摘んで、顔を外に近づける。


「ねえ、お父さんとお母さん、早く帰ってこないかな?」


「今日ね、幼稚園でね、折り紙でカエル作ったの! みんなに見せたいなぁ」


少女が笑いながら言うと、くるっと振り返って、部屋の中をスキップし始める。


その時、階段から足音が聞こえてきた。


ドタドタと軽快な音が近づいてきて、ドアがガチャッと開く。


「おーい、遥! ただいまー!」


男の人が、元気な声で部屋に入ってくる。


優しそうな顔で、スーツのネクタイを緩めながら笑ってる。


「お父さん!」


少女――遥が、パッと目を輝かせて駆け寄る。


男の人はしゃがんで、遥をぎゅっと抱きしめる。


「おお、元気にしてたか? お父さん、ちょっと疲れたけど、遥の顔見たら元気出たよ」


「ねえ、お父さん! 見て見て! カエルさん!」


遥が机に走って、スケッチブックの横に置いてあった緑の折り紙のカエルを手に取る。


ちょっと歪んでるけど、ちゃんとカエルっぽい形だ。


「おお、すごいじゃないか! これ、遥が作ったの? 上手だなあ」


男の人が感心したように頷いて、カエルを手に持って眺める。


「でしょ! 先生にも褒められたんだから!」


遥が胸を張って笑うと、男の人も「ははっ」と笑い返す。


その笑顔を見てると、なんだかこっちまで温かい気持ちになるよ。


「ただいまー。遥、健一、これからご飯作るから、少し待っててね」


今度は柔らかい女の人の声が、下から響いてくる。


遥が「やったー!」と飛び跳ねて、お父さんの手を引っ張る。


「お母さんのご飯だ! 楽しみだね、お父さん!」


「分かった分かった、慌てなくてもご飯は逃げないよ」


健一さんが苦笑いしながら、遥に引っ張られて部屋を出ていく。


ドアが閉まって、部屋が静かになる。


夕陽がもう少し沈んで、部屋の中が薄暗くなってきた。


カーテンが風に揺れて、ラグの上のクッションが少し動く。


本棚の木馬が、じっとこっちを見てるみたいだ。


しばらくすると、また階段を上がる小さな足音が聞こえてくる。


ドアがそっと開いて、遥がパジャマ姿で戻ってくる。


白い綿のパジャマに、うさぎの模様が付いていて、髪がちょっと濡れてる。


「お風呂、気持ちよかったなぁ」


遥が呟きながら、ベッドに近づいてくる。


彼女の手がそっと伸びてくる。


その小さな指が、こっちに触れると、ふわっとした感触が広がる。


遥がこっちを手に取って、ぎゅっと胸に抱きしめてくる。


「柔らかいなぁ。いつもそばにいてくれて、嬉しいよ」


彼女の声が、すぐ近くで聞こえる。


温かい息が当たって、なんだか安心するような気持ちだ。


遥がベッドに座って、こっちを膝の上に置く。


大きな瞳がこっちを見つめて、にっこり笑う。


「お父さんとお母さんとご飯食べて、楽しかったよ!」


「お母さんがね、明日公園行くって言ってたの! 楽しみだなぁ」


遥が指でこっちの頭を撫でながら、楽しそうに話す。


「お父さんがね、カエルさん見て笑ってたの。私、もっと上手になりたいな」


「そしたら、お父さんもお母さんも、もっと喜ぶかな?」


彼女の声が、少し夢見がちになる。


こっちを見てる目が、キラキラしてて、まるで星みたいだ。


「ねえ、私、毎日楽しいよ。お父さんもお母さんも大好きだし、幼稚園も楽しいし」


「でも、一番はね……」


遥がちょっと言葉を止めて、こっちをぎゅっと抱きしめる。


その温もりが、じんわり伝わってくる。


「今日も大好き、くまちゃん」


遥がそう呟いて、こっちを胸に抱いたまま、ベッドに横になる。


彼女の小さな手が、そっとこっちを包んで、静かに目を閉じる。


部屋の中が、完全に静かになって、ランプの光だけがオレンジ色に揺れてる。


あれ、くまちゃんって呼ばれた?


うん、そうだよ。


僕がくまちゃんで、遥ちゃんのそばにいるんだ。


彼女の温かい気持ちが、僕の心に染みてきて、なんだか嬉しいな。


明日も、遥ちゃんの笑顔が見られるかな。


公園でどんな楽しいことが待ってるんだろうね。

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