憧れと愛情の違い

猫月九日

第1話

「憧れと愛情の違いってなんだと思う?」


 憧れの先輩と先輩の家で二人だけでの飲み会。

 そんな最中、先輩がこんな質問を投げかけてきた。


「えっ? うーん、距離感の違いとかですかね? 憧れはこう遠くから見ている感じで、愛情はもっと距離が近いイメージ?」


 私はドギマギしながら返した。


「つまり本質的には同じ感情ってこと?」


「そうじゃないんですか?」


「……一つおもしろい話を聞かせてあげようか」



 昔、あるところに2人の姉妹がいました。

 二人は双子でしたが、見た目も性格もまったく違いました。

 姉は活発で、人当たりも良く、リーダーシップもある、誰にでも好かれる性格。

 対して妹は、引きこもり気味で影が薄く、その場にいるのすら気が付かれない。

 妹は姉に強いを抱いていました。


「私もお姉ちゃんみたいになりたい」


 大嫌いな自分をやめて、姉みたいに、姉になりたい。どうすればなれるんだろう。

 仕草や言葉遣いを真似てみたり、化粧で見た目を少しでも近づけてみたり、色々と試してみました。

 それでも、妹は姉になることができません。

 そして妹は気が付きました。


「そっか、お姉ちゃんがいる限り私はお姉ちゃんになれないんだ」


 それに気が付いた妹は無事に姉になることができましたとさ。



「……えっと?」


 話は終わり? どういうこと? 


「憧れと愛情の違いはなにか? 私はこの二つは全然違うものだと思うんだよね」


「あの?」


「恋心っていうのは、その人と近づきたいっていう気持ち。そして憧れは……その人になりたいって気持ちのこと」


「……さっきの話の妹みたいにってことですか?」


「そうそう、妹は姉と近づきたいなんて思ってなかったんだよね。ただ、姉という存在になりたかっただけ」


「……な、なんか先輩。まるで自分のことみたいに話しますね。ひょっとして……」


 今の話は先輩自身の話なんじゃ……


「ははっ、何怖い顔してんのさ! 今のは作り話!」


「えっ、あ……そう……ですよね!」


「驚かせてごめんね。あ、ちょっとトイレ行ってくる」


 席を立った先輩。


「なんだぁ、作り話かぁ……」


 本当にびっくりした。もしかして、気が付かれているのかと思ったよ。

 私はバッグから“ソレ”を取り出して、の先輩の後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

憧れと愛情の違い 猫月九日 @CatFall68

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ