第2話

 次の日は、休暇だった。カルフォルニアへの出張が決まった時に決めていた。今、カリフォルニアボールドホテルの改装工事が始まって土地の権利について国との会議があった。その後にリックを誘って、ホテルの敷地に隣接する実家で両親孝行をするためにゆっくり過ごそうかと思っていた。

 今回は、リックと喧嘩して自分一人で両親の小言にも怒りをぶつけてしまうのではないかと思った。そう考えると億劫になって急に仕事がとニューヨークに着いてから連絡を入れた。

 その為にカルフォルニアでの予定が、全てキャンセルになり、久しぶりに自宅でゆっくりと過ごす予定に変わってしまった。

 私の自宅は、マンハッタンの高層マンションの15階にあるので、外の喧騒もあまり気にならない。窓に向いた窓からは、夜はマンハッタンの光が、今は、陽の光がカーテン越しに降り注いでいた。今日は、出かけないで過ごす。朝食後にソファに腰を据えて久しぶりにリックの幼いころのアルバムを捲りながら、リックの可愛い写真を眺めていた。アルバムの整理は、健作さんがまめにしてくれていたので、家を飛び出す時にこれだけは持って出て以来宝物だった。その中には、自分と健作さんとの結婚式の写真や健作さんがアメリカに私とリックを迎えにきてくれた時の写真も挟まっていた。それを見ながら、あの緑濃い山でのことを考える始めた。

 私は、ボールドホテルのオーナー一族のホーガン家の出身で、現オーナーは、伯父だった。弟である父親は、ホテルのリネン等を取り扱っている会社の社長で、母親は、カルフォルニアボールドホテルのコンシェルジュだった。創業当時は、ボールドホテルと同じ敷地内に一族は勿論従業員も暮らしていた、私も大学生になるまでは家族と一緒にホテルの敷地の一画に住んでいた。今考えるとホテルが隣接していたので、特段家事をしなくても暮らせる裕福な家庭で育てられていたと思う。

 大学のホテル学の授業で語学留学生の田辺健介と言う日本人と出会った。彼に一目惚れしてしまったのである。彼は、日本人なのに私より背が高くて剣道で鍛えた身体は細身のマッチョだった。日本の大学も卒業していて、司法修習生として2年の研修後に留学に来ていたので日本の弁護士で法律、歴史、文学全てにおいて精通していたので、他の同級生より大人で頼りになった。

 ただ、健作さんは、英語の発音に癖?訛りがあった。小さな子供が片言で話しているような言い回しややたらに堅苦しい言葉を使ったりしていた。そのギャップがケイトには面白くて、彼に夢中になって、彼とグループワークを通じて公私にわたって気軽に話すようになった。

 健作さんは、凄く頭のいい人なので、英語はしっかりと理解できるのだが、経験不足で、頭で考えて物事を伝えるようだった。コミュニケーションの取り方が、よくわかっていないから自分の意見を言わずに聞き手にまわろうとする。人との会話不足で、誤解を受けるタイプなのだ。

 ケイトは、彼を自分の友人たちの集まりに連れて行き、色々な友人と話をさせた。初めはぎこちなかったが、しばらくすると友人たちとも仲良くなって男同士で飲みに行ったりしている様だった。

 健作さんは、私の事をいつも大切に扱ってくれた。彼の静かで、考え方がアメリカ人とは違っていて礼儀正しくて、言葉の端々にウェットに富んだ話しをしてくれる彼を一族の公のパーティーに連れて行った。私が、父以外の男性とパーティーに行くなんて初めてだった。お祖父様にも紹介した時も彼は、笑顔でお祖父様の話を聞いてちゃんとした考えを持って応対してくれた。

 両親にも紹介した時も、落ち着いて話を広げていくので、益々私は、彼の事が好きになった。

 彼は、日本の四季や建物や美術品の事を話やお祭り、そして彼の住む高野山の事を教えてくれ、少しずつだが、日本語も教えてくれた。

 2人の共通は、ケイトはホテル、健介は旅館で育ったので各々の良さや悪さを話し合うようになっていく頃にはお互いを将来のパートナーとして付き合い始めていた。

 お付き合いも一年が過ぎる頃には、両親も彼の誠実さを理解してくれていて、2人が恋人として付き合うことも賛成してくれていた。

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