終章

「──以上が、今回の報告となります」

 首領執務室で、広津が報告をしていた。

「なるほど。ご苦労だったね」労った。「いえ。我々から奪った物のうち、倉庫から出てきたのは半分ほど。残りの半分は見つからず、敵の頭も逃亡中。面目次第もございません」頭を下げた。

「それに関してはすでに手を打ってある。気にすることはないよ」

 頭を上げた。

「此度の襲撃ですが、どうしても気になることがあります」

「我々が弱体化している、という発言だね?」

「はい。一体誰がそのような情報を流したのでしょう? 今回のようなことがまた起きなければ良いのですが」

「大体の予想はついているが、まだ確定ではない。引き続き警戒が必要だね。だが・・・・・・」

「いかがいたしましたか?」

「今回の襲撃で、我々が健在だということを知らしめることができた。それだけでも良しとしよう」

「作用ですな。では、私はこれで失礼いたします」

 執務室を後にした。

「さて。あちらはどう動いてくるかな?──」


       ◆  ◆  ◆


 双羽商会ビルの裏口。

 慌てながら荷物をトラックに積み込む男がいた。清佐田だ。

 命からがら逃げ出した清佐田は、ヨコハマから脱出する準備をしていた。

 目立たないよう、トラック側面のマークと社名は消されていた。

「くそ。あの情報屋め、よくも騙しやがったな」運転席に乗り込んだ。「おかげでこっちは滅茶苦茶だ」

 そのとき、清佐田の携帯が鳴った。

「誰だ?」

「私です」

 電話の相手は、その情報屋だった。

「貴様、どのツラ下げて掛けてきやがった? よくも俺たちを騙したな」

「おや? 私はあなた方に顔を見せたことも無ければ、騙したこともありませんよ」

「ふざけるな。『組合ギルドの一件でポートマフィアが弱ってる』と言ったのはお前だろ」

「ああ、その事ですか。私は“弱っているらしい”とは言いましたが“弱っている”と断定は一度もしていませんよ。そちらの勘違いなのでは?」

 情報屋の態度に、清佐田の怒りは頂点に達した。

「俺たちを騙したこと、後悔させてやるからな。俺さえ生きてればスワロークラフトはまた復活する。次会ったら覚えていろ」

「あなたたちと。いや、あなたと顔を合わせることは今後もないでしょう。それに、あなたの命運もこれまでのようです。では、ご機嫌よう」

 電話が切れた。

「おい! くそ、最後までバカにしやがって。とにかく、早くこの街から逃げないと」

 発進させようとしたところ、立ちはだかる男が見えた。芥川だ。

「禍狗!? ここまで追ってきやがったのか?」

「部下を見捨てて自分だけ逃げるか。どこまでも愚かだな」

「くそ。こうなれば──」エンジンをかけた。「お前も道連れだ」

 猛スピードで芥川に突っ込んだ。

「忘れたか? やつがれの異能はあらゆる物を喰らう」

 芥川にぶつかる寸前で見えない障壁に阻まれた。トラックが衝突するまでの空間を一部喰い削ったのだ。

 アクセルを踏み続けるも、トラックが動くことはなかった。

「こんなところで死んでたまるか」

 脱出を試みた。

 しかし、衝突の衝撃でドアは歪み、開くことはなかった。

「愚かな・・・・・・」

「わ、悪かった。お前たちには二度と手出しはしない。だから、助けてくれ」

 黒外套が、獣の頭部を模した形へと変化した。

「──異能力、羅生門!」

 黒獣がトラックを襲った。

 運転席ごと清佐田を喰い潰した。

 路地裏には、清佐田の断末魔が響いた。

「所詮は愚者の蛮勇、か・・・・・・」

 携帯を取り出し、電話をかけた。

「終わった。あとは任せる」

「かしこまりました」


       ◆  ◆  ◆


「やはり彼らではダメでしたか」

 その様子を、ビルの上から見ている男がいた。

 白いロシア帽をかぶり、白い服の上から黒いマントを羽織った男。その瞳は赤紫色に怪しく光っている。

「私の掌で踊らされていたことに最後まで気づかないとは。なんとも哀れですね。けどまぁ、私の流した嘘に乗っかってくれたことには感謝します。おかげで彼らの戦力を知ることができましたし、こちらの準備もかなり進みましたから良しとしましょう」

 強い風が吹き、マントが大きくなびいた。

「さて。あちらもそろそろ動き出す頃でしょう。こちらも次の段階へと移らないと、ですね」

 反対側を向いた。「そろそろ、ぼく自身も行動を起こさないといけませんね」

 ビルを後にした。

「誰もが罪のくびきより解き放たれ、魂の救われんことを──」

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