4章②

       ◆  ◆  ◆


「これは奈津様、まりあ様。お待ちしておりました」

 店に入った樋口たちの前に、初老の男がやって来た。この店の主人だ。

「ご無沙汰しています。お変わりはないですか?」

「おかげさまで。立ち話も何ですので、こちらへどうぞ」樋口たちを商談ルームへと案内した。

 この店はポートマフィアの系列組織が経営する宝石店であり、ポートマフィアと取引のある裏社会の人間や政財界の人間が来ることもある。

 そのためこの部屋は、表立ってはできない取引の場として使われているのだ。

「ずいぶんと用意がいいですね」商談ルームには赤を基調とした応接セットが置かれていた。「私たちが来ることが分かっていたのですか?」

「昨日の件で上層部が動いているとの情報がまわっています。こちらにも来られるのでは、と思っていたところです」

 樋口と銀が調査任務を行なっていることはポートマフィアの情報網を通して各組織に伝達されている。そのため、樋口たちがいつ来てもいいよう準備をしていたのだ。

「なるほど、そうでしたか」応接セットのソファに腰掛けた。「では、本題に入りましょう」

「今回の話を受けて従業員達に聞き取りをしたところ、当店の数名が目撃しているとのことです。車両の特徴も一致しています」聞き取った内容を伝えた。

「やはり、こちらでも目撃されていましたか」

「はい。ですが、一つだけ違う情報もございます」

「と、言うのは?」

「今朝聞いた話なのですが、その車両を昼間に見たという者がおります。その者を呼んでおりますので、もう間もなく来ると思います」

 扉を叩く音がして、一人の若者が入って来た。

「この者が目撃者です」樋口達に紹介した。「報告を」

「はい。目撃したのは昨日です。街を歩いていたところ、一台のトラックが停まっているのを見かけました。この辺りでは見慣れない運送業者でしたのでよく覚えています」目撃した経緯を説明した。

「なるほど。そのトラックの特徴などは覚えてますか?」

「車の色は白で、側面には“燕のマーク”と『スワロークラフト』という会社名が書いてありました」

「本当ですか!?」思わず声が出た。「そこまで分かれば十分です」

「お役に立てたようで、何よりです」

「これで調査も大幅に進みます。ありがとうございます」立ち上がると、扉の方へ向かった。「また何かあったら連絡してください」

 店を後にした。

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