第2話
「で、この薬いくつ飲んだの?」
「三つかな、ずっと結隊長が付きっ切りで看病してくれてたみたいだから隊長が飲ませてくれたと思う…」
記憶が曖昧なのだろう、こんな子供に飲ませたらあっという間に高熱が出て肺炎起こして当たり前、何考えてるんだ、兢ちゃんにこの薬を託した馬鹿は!医者の風上にも置けないよ、見つけたら教育し直してやるんだから、と壊加は歯噛みした。
「咳、大分治ったね…無茶しちゃダメだよ」
「御迷惑お掛けします…」
壊加は、もう少し休んでな?まだ昼ごはんには早いよ、と微笑むと玉露の頬を撫でて老師の薬草室に向かう。
そこには丁度妹の咲と花梨がいた。
「咳止め薬作ってるの?偉いね、よく覚えたな」
「老師が教えてくれました、玉露君のお世話は初めてじゃないもの」
乾燥した薬草を石臼で挽きながら得意げな表情の咲に、壊加はあの子、病弱なの?と眉を寄せた。
違うのよー、陛下が軍部でからかって本気で返り討ちしちゃって、と苦笑すると咲は粉にした薬草を花梨に渡す。
お湯で煮出しながら濃くしていく花梨に、壊加は手慣れてるな、と関心した。
「春ちゃん相手に?うわー、命知らずっていうかなんて言うか…」
玉露の暴挙に、呆れた溜息を漏らすと、けしかけたのは陛下です、と花梨が答える。
「いつから弱いものいじめするようになったんだよ、春ちゃんは…」
「陛下ってそんなにお強いの?」
咲は、まさか、と笑い飛ばすが、壊加は知っている。
戦時中の猛攻も西栄国侵入の出撃も先陣切って突破したのは、全部春蘭の実力であることに。
「春ちゃんが本気出したら兢ちゃんだって歯が立たないよ」
壊加は、花梨が煮出した薬湯を持って医務室に戻る。
そこには、先日新規で雇い入れられた老師の助手でまだ若い医師の卵がいた。
名前は、慎 望郷。歳は十六で壊加と同じだがまだまだ医者としては駆け出しの不安定さが否めない。
玉露の寝台脇に立っているのでてっきりお見舞いか、と安心していた壊加は、逆光で煌めいた短刀の刃に目を疑った。
薬湯を望郷に向かって投げつけると、手術用の細い小突で怯んだ望郷の首元に刃を当てる。
「どこの刺客だ、あんた」
「王老師の助手に、と雇い入れた民間の医師で慎 望郷です、お見事です、武医師」
警備の役人を連れた劉宝が、望郷を引いて行くよう指示すると、壊加はあいつ、隠密の技仕込まれてるね、と囁く。
望郷の持っていた短刀がグサリ、と壊加の脇腹に刺さっていた。
劉宝は、直ぐに王 老師を!と叫ぶが、平気、このくらい自分で治療出来る、とマッチで火を付け短刀の周りの肉を焼くと、一気に短刀を引き抜いた。
いそいそと縫いながら、止血していく壊加の手際の良さに、劉宝が目を見張った。
「無茶をしてるのは貴方ですよ、医者が怪我してどうするんですか」
「でもこの場合、ほっといてたら玉露ちゃん即死でしょ」
包帯で巻いてもらいながらケタケタ笑う壊加には、緊張感が見られない。
僕なら平気、結構自分で実験して縫ったり切ったりしてるから、とさも当たり前のように微笑むその目は笑っていなかった。
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