第42話
壊加の診断により、玉露は王都へ帰還させるよう絶対命令が出た。
咲も容体が安定期に入るまで後宮で養生するよう、壊加は諭すと花梨に妹を頼む、と懇願した。
兄の顔で、心配する壊加に、春蘭でさえ根負けした。
「春ちゃん、咲をこれ以上危険な目に合わせないで!僕は君が大事にしてくれるって言うから蝶よ花よと北栄で持て囃されたお姫様育ちの咲を君にあげたんだ、身重のこの子を連れ歩くなら離縁させるよ」
「壊加、ごめん、私が安易だった、すぐに王都に送るから離縁なんて言うな、頼む」
お兄様、私なら大丈夫ですから!陛下に勝手についてきてるのも私の我が儘なんだし、と困ったように苦笑する咲に、お腹の子は大丈夫じゃないの、と壊加は咲を叱責する。
頼むから医者の言うことは聞きなさい、と言われてしまっては、頷くより他はなかった。
壊加と咲には、両親がいない。
壊加の父親、武 宝楽は北栄国の医療責任者で母親の凛は看護師だった。
母は、自分と引き換えに命がけで壊加を産んだらしい。
壊加には、母の記憶は何もない。
幼子だった頃、宝楽は咲と農民の娘を連れ家に勝手に住まわせた。
咲は、その農民の娘が無理矢理村の青年に犯されて出来た子供で、壊加とは何も繋がりのない子供だった。
咲は今もその事実を知らない。
壊加は、医者の勉強をしながら遺伝子の研究もしてこっそり調べたことがある。
貧しい生活で栄養不良気味だったその咲の母親も死んだ。
宝楽が亡くなったのは、戦時中で萩 提安を乗せた船に同行し共に大河の藻屑となっていた。
決して裕福ではない北栄国に、妹を置きたくない。
何処の馬の骨か分からないような男に嫁がせたくもなかった。
一番安全で一番大切にしてくれる人に預けたい、家族を失うのは懲り懲りだった。
血が繋がっていなくても可愛い可愛い、と愛でてそばに置いてきた唯一の家族はこの世界の王に預けた。
大事に大事に生涯可愛がってくれるよう一昨年前拝み倒したのに…。
「春ちゃん、次、咲を危険な目に合わせたら僕は君を許さないから」
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