縁者の猛攻
第32話
一方、風虎は山の山頂付近まで春蘭達を探しに来ていた。
「雨止んだのに遅いよー!大変だったんだからー」
頬を膨らませる風虎に、春蘭は苦笑した。
辺りを見渡すが清良がいない。
「清さんなら領主様の家に置いてきたー。今日の宿、そこでいいって、領主様のお嬢さんお墨付き」
「は?あのコミュ障の清良をお前一人にしてきたのか?」
鉄面皮で表情筋あるのかないのか、外交に向かない清良の評価は春蘭にとって仕事は出来るが対人関係皆無であった。
ひっどいね、あの人、ちゃんと人と話せるよ、と風虎は先行しながら山を駆け下りる。
「その娘、もしかしておまえにそっくりなんじゃねぇの?」
兢のニマニマ笑う顔に、春蘭はげんなりした表情を向けた。
「そんな可哀想な娘、いたら同情するわ」
「えー、絶対可愛いって!清良さん、お前の顔大好きだもんな」
最悪だ、と項垂れる春蘭の腕の中で咲が、陛下が女の子だったら絶対綺麗です、と笑う。
千春も、きゃう、と目を丸くして鳴いた。
「私に兄弟も姉妹もいないのは知ってるだろうに…」
はぁ、とため息を吐けば、世界に似ている顔の人間は三人いると言いますよ、と一途が笑いながら駆け抜けて行く。
失礼な奴らだな、と春蘭も追って行く。
山を降りると、大河に面した古い街並みが広がった。
「何とか日暮れまでに関所は越えられそうだね」
唯が、ホッとしたように濡れた衣服を馬上で叩いた。
着替えないと風邪引きそう、と花梨も苦笑する。
春蘭は、咲の頬に触れ冷たいことに気づくと、先を急いだ。
華月が嘶くと、急いで一行は領主、平 冬樹宅へ走った。
領主宅へ着く頃、クシュンクシュン、と玉露がくしゃみをし鼻水をすするようになっていた。
一番年下の子供が一番弱いと分かっていたはずなのに。
「玉露、大丈夫か?」
兢の声にも反応が薄い。
かくん、と頭を垂れたまま、頷くのが精一杯のようだ。
「もう着くよ、ほらあそこ」
風虎の指差す先に、古そうなでも伝統あるお屋敷が見えた。
何とか辿り着くと、風虎が入り口にいる用心棒に事情を話す。
直ぐに、医者を呼んでくれることになり、一行は客室まで案内をしてもらった。
春蘭は、咲から千春を受け取ると、用心棒に声を掛ける。
「すまない、領主殿はいらっしゃるか?私の犬なのだが外で良いので世話させて貰えないだろうか?」
千春が、不安そうに、きゅーん、と鳴く。
用心棒は、春蘭を見るなり目を見開いた。
「犬を買ってこられたのですか?」
「え、ああ、まぁ、可愛いだろう?真っ黒なのが私に似てて気に入ってるんだ」
千春を差し出すと、用心棒は眉を寄せる。
確か、黒い動物は飼うことは許されていないはずだよなぁ、と首を傾げると、何があった?と領主、平 冬樹が表へ出てきた。
「春華!なんだ、その動物は!」
「はるか?」
春蘭が、首を傾げると、黒い動物など!と千春を掴んで地面に投げつける。
キャン、と甲高い声で鳴くとビクビク震えて千春は縮こまる。
「何をする!私の犬だぞ!」
春蘭は慌てて怯える千春を抱き上げると、ぎゅーっと抱きしめた。
怖くない、ごめんな、と優しく撫でようとするが千春は恐怖で春蘭の腕を噛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます