第1話 いつもの仕事

幼い頃の夢を見ていた。

  




「■■■■」





 その人の名を呼ぶ。滑らかな手を握り、駆け出す。


足は軽やかで何処までも走って行ける様な気がしていた。



…………僕は自由だった。



 場面が変わった。自分が血塗れになっており、大勢の人が倒れている。


足元を見ると、"■■■■"が倒れている。その開ききった瞳孔から目が離せない。足に枷が付く。


 僕は人に話し掛けている。その人と契約をする。



…………食べる。



 枷が付く。繰り返す度に、どんどん足が重くなる。混じり合っていく。段々、自分が自分では無くなっていく。


 僕は仮面を被る。完璧を振る舞う。段々、自分が空っぽになる。僕がどんどん希薄になる。





…………そうして、僕はに成った。







「ゔうっ……………………」





私は目を覚ました。欠伸をし、何とか起き上がる。寝るのは好きだった。しかし今日は予定があるので起きなければならない。


 簡単に支度をして、ピアスを付ける。この藤の花を模したピアスは私が時から持っていたが気に入っていた。いつも通りに髪を団子に纏めて眼鏡を掛ける。


 眼鏡は高級品だ。それをかけられると言うことは裕福なことの証明である。

 しかし、機能が幾つか追加されているためかなり重く、正直なことを言うと外したい。



 …………私は視力は良い方だ。付けなければならないことは、かなり不満である。



 支度を終えるとリビングに向かう。





「遅いよ、寝坊助。」


「遅刻だ。」





 部屋には二人の男がいた。師匠達だ。


 右の軽薄な金髪金眼の美青年がレオニダス・エクリプスである。横に分けた金属的に光る髪が特徴的で、いつも食えない笑みを浮かべている。


 左の無表情な黒髪碧眼の美青年はれいである。ウェーブが掛かった長い髪はあちこち勝手に飛び出し、左目を覆い隠している。


 いつも無茶な試練や要求をしてきた二人だったが今日は特に嫌な予感がする。





「今日は大事な話があると聞きましたが。」


「そうだね。君はいつも無茶な要求に応えてくれたね。」





 …………自覚があったのか。しかもいつもとは。



 ……殴りたい。





「君に頼みたい事はね。この国の騎士団に入って貰いたいんだよ。」


「何故です?」


「君、今無職でしょ?仕事に着いて欲しいのもあるけど。やりたい事の代行をして欲しいんだよね?」





 あの事件は私が悪いのでは無いんだが…

 後、私はあの中で1、2を争う存在だった。



 ……嗚呼。また面倒な事になった。 





「……それでやりたいこととは何でしょうか?」


「それは今は言うわけにはいかないよ。あと君は猫被るのが得意だったよね。

 だから君には完璧になってもらうよ?」


「完璧?」


「そう。所作や行動、言動もね。」


「そこで出世してある人物の護衛をして欲しい。」


「それが表向きの理由ですか。

 ……それで誰を護衛すれば良いんでしょうか?」


「その事は後で連絡するよ。多分彼も君を気に入ると思うよ?」


「お前は強い。ある程度ならば、すぐ上に行けるだろう。」


「後は狡猾さだね。さて、君には出来るかな?」





 いつも彼らは私を「猫」と呼ぶ。気まぐれだからだそうだが、たまに実験と称して耳を生やそうするのはどうにかして欲しい。



 ……何故私なのだろう。レオニダスの方は弟子達が沢山いて、私以外にもっと相応しい候補は居るはずなのだ。



 でも私には拒否権はない。いつも疑問形で聞くが命令と同義なのだ。





「分かりました。」


「良かったよ。ただ君には名前と姿を変えてもらう。」





 ……それはかなり不味いのでは。





「大丈夫だよ。私には人脈が有るからね。まあバレても誤魔化せるだろう。」



 私が渋い顔を浮かべた事に気づいたのか、適当過ぎる言い訳を述べる。然し、私の安全は保証されていない。





「私はどうなるのでしょうか?」


「君なら逃亡くらい出来るでしょ?」


「一生逃亡者になれと?」


「でも君にも利点が有るよ?君も将来の為にもしたいでしょ?」





 …………確かに私の事情的には必要ではある。それでもそれだけの為に人生を賭けるのはやり過ぎだ。



 しかし退屈しなさそうだ。





「やりますよ」





 私は笑みを湛えながら言った。

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