第41話 シェルヴィ様は確かめたい!

「ハ、ハース……!」


「はい、どうされました?」


「い、いや、やっぱりなんでもないのだ……」


「そうですか」


 俺が目を覚ましてから迎える最初の朝。

 

 丸一日眠っていたとはいえ、身体はいつも通り。

 だから今日も今日とて、シェルヴィ様と学校に向かっているのだが、何やらシェルヴィ様の様子がおかしい。


「あっ、う……」


 話しかけてきたかと思えば、なんでもないの一点張り。

 しかも厄介なことに、その原因がさっぱり分からない。

 

 はぁ。

 ただでさえ今日は、パパさんに呼び出されているというのに。

 全く、忙しい1日になりそうだ。


「シェルヴィ様」


「むっ、なんだ!?」


「何か気になっていることがあるんじゃないですか?」


「なっ……!

 そ、そんなわけないのだ。

 全く、これだからハースは」


「申し訳ありません」


「うむ」


 うん、すごく分かりやすい。

 ほんと、ここまで分かりやすい人って逆に珍しいんじゃないかな?


 というのも、魔王城を出てからずっと手を組んでは解いてを繰り返し、ソワソワして落ち着きがないシェルヴィ様。


 これは確実に何かある。

 小学生でも分かる、イージークエスチョンってやつだ。


 それより、今石の階段が見えてきたということは、学校まで大体半分といったところ。

 そろそろ聞き出さないと、シェルヴィ様が沈黙を貫いてしまう。

 俺は昼からパパさんと話し合いがあるし、何か話をしなければ……。


「ほんと、昨日は色々あって大変でした」


「そ、そうか!

 具体的には何が大変だったのだ?」


 えーっと、急に目が合って、声のトーンが上がったと……。

 ほぅほぅ、なるほどなるほど。

 ずばり、今回の鍵は昨日にある!


「そうですね。

 具体的には、悪夢を見た、とか……」


「へぇー」


 うわっ、すっごい真顔。

 とりあえず、悪夢には興味なしと。

 なら次は……。


「悪魔に会った、とか……」


「へぇー」


 なん、だと……。


 これにも興味を示さないとなると、本当になんだ?

 だって今の2つは、俺が経験した昨日の全て。

 一体、これ以外に何があると言うんだ……。


「で、でも、みなさんが付き添ってくれたおかげで、この通り元気になれました」


 その時、シェルヴィ様の眉がピクっと動いた。

 あれ、今動いたよな?


「シェルヴィ様、付き添っていただき本当にありがとうございました」


 再びシェルヴィ様の眉がピクっと動く。


 えっ、何で?

 今何に反応したの?

 ちょっと、えっ、全然分かんないんだけど。


 人は困った時、大体この人に祈る。


 頼む神様、シェルヴィ様に何かヒントを喋らせてくれ。


 その時、俺の願いが届いたのか空から雷のような光が落ち、シェルヴィ様に直撃した。


「シェルヴィ様ぁぁぁぁあああ!」


「ん?

 急に大きな声を出してどうしたのだ?」


「あっ、なんでもないです」


 一瞬ヒヤッとしたが、身体へのダメージは全くないらしい。


 でも、だとしたらあの光はなんだ?

 偶然にしてはタイミングが良すぎるし、何もないにしては演出が派手すぎる。


「ヒック」


 しかし直後、俺はあの光の効果を実感することになる。


「おいハース」


「はい」


 やっぱり、どう見てもいつものシェルヴィ様だよな……。


「ヒック、昨日はシロと、ヒック、何をしていたのだ? ヒック」


 って、全然普通じゃなぁぁぁい!

 というか、顔が赤くて、呂律が回らない状態ってことはもしかして……。


「シェルヴィ様、酔ってます?」


「ふぁ?

 お酒は、ヒック、20歳からなのだ。

 ヒック、我が酔うわけないのだぁぁぁああ!」


 わぉ、情緒不安定。


「シェルヴィ様、お水をどうぞ」


「あっ、どうもありがとうなのだ。ヒック」


 俺は氷で作った湯のみを、やけに丁寧なシェルヴィ様に渡し、中に水を適量注いだ。


「うむ、悪くない味なのだ」


 ただの水に感想を述べるシェルヴィ様。

 これは間違いなく酔っている。


「で、どうなのだ?」


「何がです?」


「だ・か・ら、シロと2人で何をしていたのかと聞いてるのだ!」


 あぁ、また怒ってる。


 でも、これでようやく分かった。

 シェルヴィ様は、俺がシロさんに手を出したのではないかと疑っているのだ。

 なんてメイド思いなお嬢様なんだろうか。

 よしっ、それなら俺も包み隠さず全てを話そう。


「昨日は、(猫眼で)身体を拘束されたり、(記憶を)赤裸々にされたりしましたが、結局何も無かったですよ」


「おいハース……グゴゴゴォォォ」


「えっ、シェルヴィ様……?」


 あれ……?

 なんか嫌な予感が……。


「お前は、世話役失格なのだぁぁぁあああ!」


「えええええええ!」


「我は1人で学校に行くのだ!」


 そう言って、シェルヴィ様は走り出した。


「ちょっ、ちょっと、待ってくださいよ、シェルヴィ様ぁぁぁぁあああ!」


 この誤解を解くのに、俺は1週間もの期間を費やした。

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