第32話 シェルヴィ様が2人いる!?(1)

「ふぅ、今日は特に疲れたな」


 今日もシェルヴィ様は絶好調で、一日中とにかく元気だった。

 おかげさまで、こんなにもクタクタだ。


「ハース、また明日なのだ!」


 とか、笑顔で言ってたっけ。

 なんか、気づいたら朝になってそうだな、あはは。

 でも、そんな日常が、しあ、わせ、だ……。

 俺はふかふかのベッドで深い眠りについた。


「ハースさん、ハースさん、起きてください……にゃ!」


「……んっ」


 シロさん?


「ハース、早く起きるにゃ!」


「ん?」


 えっ、クロさん?


「ふわぁ、どうされました?」


 今日って確か、学校休み、だよな。


「シェ、シェルヴィ様が……」


 おいおい、クロさんのこんな顔初めて見たぞ……。

 よくない事、なのか。


「シェルヴィ様が、どうされたんですか?」


 クロさん。

 次の言葉次第では、俺の命も危ないですからね……ごくりっ。


「なぜか……」


「なぜか……」


「2人いるのにゃ」


「・・・。

 どういうことぉぉぉおおおおお!」


「焦るのも無理はないです……にゃ。

 でも、ハースさんの力が必要なんです……にゃ」


「シロさん、シェルヴィ様はどこですか?」


「食堂です……にゃ!」


「分かりました!」


 俺は寝起きで寝巻きで寝癖がついたままの状態で、食堂へ空間転移した。


「シェルヴィ様!」


 そしてすぐに名前を叫んだ。

 すると、2人が言っていたままの光景が俺の目に飛び込んできた。


「おいハース、どうしたのだ?」


「おいハース、どうしたのだ?」


「シェルヴィ様が、2人……」


 空間転移した俺の前に歩いてきた2人のシェルヴィ様。


「おいお前、我がシェルヴィなのだ!」


「おいお前、我がシェルヴィなのだ!」


「ぐぬぬぬぬ」


「ぐぬぬぬぬ」


 おそらく、行動も思考も一緒だ。

 本当に見分けがつかない。


「シェルヴィ様、シェルヴィ様!」


 俺はそれぞれのシェルヴィ様に声をかけてみた。


「うむ」


「うむ」


 あぁもう!

 どっちだ、どっちが本物のシェルヴィ様なんだ……。


「ハースさん……」


「ハース……」


 そこへ、クロさんとシロさんが合流した。


「ハース、我が本物なのだ。

 信じて欲しいのだ……うるうる」


「ハース、我が本物なのだ。

 信じて欲しいのだ……うるうる」


 こうなってしまった理由より、今は本物がどっちなのかを見極めなければ、シェルヴィ様に合わせる顔がない。

 もうすでに、顔は合わせてるんだけど。


「ハースさんなら、本物のシェルヴィ様が分かるんじゃないですか……にゃ?」


「ハース、どうなのにゃ?」


 2人から向けられる期待の眼差し。

 でも、俺には無理だ。


「クロさんシロさん、すみません。

 俺にも、さっぱり分からないです……」


 前にも、無力な自分を悔いたことがあった。

 あの時は確か、シェルヴィ様と喧嘩して、初めての学校だったから場所が分からなくて、フェンリアルに頼ることしか出来なくて……。


「あれ?」


「ハース、何か分かったのかにゃ?」


「いや、まだもしかしたらの段階なんですけど、分かるかもしれないです」


「にゃにゃ!」


 もちろん、今言ったことは冗談じゃない。

 何せ、今の俺には頼れる隊員が100人以上もいるんだから。


「フェンリアル! レオル!」


「なんか今、呼ばれた気がしたガウ!」


「ハース様、お呼びですか!」


 俺が呼んですぐ、食堂の床に魔法陣が浮かび上がり、2人が姿を現した。

 しかも、2人はなぜかお揃いの白軍服を身に纏っている。


「にゃにゃ、なんか出てきたにゃ!」


「でも、どこかで見たことあるような気がします……にゃ」


 突然床から出てきたフェンリアルとレオルのせいで、気まずい空気が出来上がってしまった。

 でも、今は非常事態だ。


「おぉ、あの時の狼とライオンではないか!」


「おぉ、あの時の狼とライオンではないか!」


「えっ、双子だったんですか!?」


「あぁ、そういう事か」


 まぁ、そうなるよね。


「フェンリアル、レオル、ちょっと聞きたいんだけどさ」


「はい!

 どうされましたガウ?」


「何なりとお申し付けください」


 俺の求めている人物、それは……。


「タコっている?」


「タコってる、ガウ?」


「タコ、ですか?」


 天然なフェンリアルは一旦置いとくとして、求めている人物はタコだ。


 タコは神経系が非常によく発達している無脊椎動物で、神経細胞の数は約5億個。

 そして、そのほとんどが腕に割り振られているため、腕1本1本に小さな脳があると言われている。


「タコってる人、タコってる人……」


「……あっ!

 ハース様、1人だけいます!」


「レオル、本当か!」


「はい!

 おーい、オクトいるか?」


 名前はオクトっていうのか。

 いかにもタコっぽい名前だな。


「レオル副隊長、お呼びですか?」


 床に浮かび上がった魔法陣から出てきたのは、髪の毛がタコ足になっている美しい女性。

 白軍服を身に纏う彼女もまた獣魔隊の隊員だ。

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