第30話 シェルヴィ様は諦めない!(1)
「みんな、おはようなのだ!」
「おはようございます!」
今日はシェルヴィ様が1番得意とする授業があるらしく、朝からとにかくテンションが高い。
「シェルヴィ様おはよう!」
「ナタリアおはよう!」
あっ、シェルヴィ様も「おはよう」って言われてる。
なんだろう、自分の事のように嬉しい。
「じゃあ、俺はいつも通り後ろで見てますね」
「いや、今日は違うのだ」
「え?」
「今日の授業はすぐ近くの平原でやるのだ」
「へぇ」
というわけで、校区内にある平原へ先生と2-1組全員、モノレールで移動しました。
「……モノレールあったのかよ!」
『魔王モノレール』の文字がプリントされた車体は上半分が青、下半分が白に彩られ、4両編成で校区内上空を走っているらしい。
どうしてこんな便利な物をシェルヴィ様は使わないのか、後でちゃんと理由を聞いておこう。
「おいハース、ちゃんとついてくるのだ」
「はい、すみません」
そして、モノレールを降りてから少し歩くと、何も無い平原に突然円形の的が5つ見えてきた。
「シェルヴィ様、あれは的……ですか?」
「ふっふっふ、そうなのだ。
しかも、あの的にスノーボールを当てた者は、自由時間を与えられるのだ」
おぉ、それはいいな。
報酬が準備されていれば、生徒の意欲が高まると同時に、達成感が得られ、魔法技術の習得が出来る。
非常によく考えられた授業だ。
「よーし、じゃあ今日は150メートルの位置からな。
で、最初は誰から行く?」
先生を中心に円を作る生徒たち。
しかし、一向に手があがる気配はない。
やっぱり、最初は緊張もするし、恥ずかしいのかな……。
なんて事を考えていると、隣でシュパッと手があがった。
「我、我が行くのだ!」
ぴょんぴょんジャンプし、全力でアピールするシェルヴィ様。
と、尊い……。
「分かった。
じゃあ、シェルヴィから時計回りな」
「ふっふっふ、ハースよく見ておけ」
「はい」
シェルヴィ様は先生が指さした位置まで歩くと、1度深呼吸をした。
そして、右の手のひらを前に出すとこう唱えた。
「スノーボール!」
すると、シェルヴィ様の手のひらから小さく丸い雪玉が放たれた。
その雪玉は目で追える程度の速さだが、非常によく制御されている。
バスッ。
そして、雪玉は見事に的を捉えた。
「よし、やってやったのだ!」
「シェルヴィちゃんすごい!」
「流石はシェルヴィ様です!」
見事的を捉えたシェルヴィ様は、先生や生徒たちから拍手喝采を受けた。
あっ、もちろん俺からも。
「よしお前ら、どんどん行けよ」
先生の指示を受け、生徒たちはローテーションしながら、次々とスノーボールを放った。
しかし、これが面白いほど当たらない。
俺は先にクリアしてしまったシェルヴィ様に尋ねた。
「これってやっぱり、難しいんですかね?」
「うーむ……。
我はまだ1度もミスをしたことがないから分からないのだ。
でも、ナタリアがミスしてるところを見ると、難しいのかも知れぬ」
「なるほど……」
あぁ、すごくやってみたい。
「シェルヴィ様、俺もやってみていいですかね?」
「うむ。
でも、そう簡単に当たるものではないのだ」
「それはそうだと思うんですけど、俺もやってみたいです!」
「う、うむ。
そこまで言うのなら仕方がないのだ。
ミーシャ先生、ハースに1回だけやらせてあげて欲しいのだ」
あっ、今更だけどあの先生の名前ってミーシャだったんだ。
一応覚えておこう。
「あぁ、いいよ。
その代わり、2つ以上の的を狙うことが条件ね」
「はい、ミーシャ先生ありがとうございます!」
「あれぇ、冗談のつもりだったんだけど……。
まぁいっか」
俺はみんなと同じように列に並び、その時を待った。
そしてついに、俺の順番がやってきた。
「イケメンさん頑張れ!」
「シェルヴィ様が見てるよ!」
「失敗したら私と付き合って!」
勝手に上がっていくハードル。
しかも、なぜかみんな手を止め、じっと俺を見つめている。
流石に失敗できないな。
「じゃあ、いきます」
悪いが、スノーボールなんてものを俺は知らない。
だから、自己流でいかせてもらう。
再び俺の中に生まれるあの感覚。
俺ならできる。
右の手のひらを上に向け、そこへ魔力を集中させる。
その際、以前より魔力制御が明らかに上達しているのを実感した。
そして、魔力が溜まりきったその瞬間、俺は手のひらを正面に向けた。
「魔静術……
雪に霜が降り、一回り大きく硬くなった雪玉は5方向に放たれた。
もちろん、5つ全ての的を射抜くためである。
でも、ここで疑問が1つ。
魔静術って何なんだ?
今のは初めて味わう感覚だったが、並大抵の人には扱えない研ぎ澄まされた感覚だということくらいは俺にも理解出来た。
ほんと、まだまだ分からないことばかりだ。
バシッ!
そして、俺の放った雪玉は5つの的全てを何とか捉えた。
特に1番右の的なんて、ギリギリ右上に当たっている。
「ふぅ、なんとか当たったな。
シェルヴィ様、どうでした?」
俺が振り返るとそこには……。
「ほ、本当にやりよったのだ……」
「ハースさん、ほんとに何者なんですか……」
「おいおい、嘘だろ……。
あの魔力制御技術、魔王様に匹敵するんじゃないか……」
空いた口が塞がらないシェルヴィ様、ナタリアさん、先生の姿があった。
「イケメンさんかっこいい!」
「キャーッ!」
ただ、他の子たちはいつも通り黄色い声援を送ってくれた。
それでも、3人の反応が頭から離れない。
だって3人とも、夢を見ているかのような顔で俺を見ているから。
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