第28話 ロボットたちよ、世界の終末だ
空賊は、セブに向かって剣を閃かせた。と、セブが呻いて跪いた。本物だッ、とセブが手を押さえながら苦しそうに言った。「手をやられちまった」
「おっと、おれとしたことが仕損じまったか。今度はお前の内部モーターを一突きだ」
そう言って、空賊が狙いを定めて構えた。セブが殺される。助けようにももう間に合わない。しかし、空賊は今にも剣を突き刺そうとする姿勢のまま動かなかった。
「バッテリー切れだ。お前は運がいい」とバルクが言った。
「さあ、早く、こんなところから脱出しよう」とパズルがセブを抱き起した。
「お前ら、逃げるのか」と、剣を構えたままの空賊の金属的な音声だけが響いた。
僕らは、オーニソプターの駐機してある場所まで急いで行き、動くやつを探した。しかし、どれもバッテリーが切れていて、動くのがなかなか見つからなかった。
「動いたッ」と、しばらくしてパズルが一機、動くやつを見つけた。「もう一人一機なんて見つけている余裕は無い。二人乗りで下るんだ」
「わかった」と僕とバルクで動けるオーニソプターを探した。そして、何機目かで見つけた。僕が前に乗り、手綱を握った。後ろにバルクが乗っかった。
「いくぞッ」
そう叫んで、パズルが鳥型オーニソプターの手綱を引いた。パズルとセブを乗せた鳥は翼を大きく羽ばたかせながら、天井に開いた穴から飛び出して行った。工場の奥で、目を覚ましたモンスターどうしが互いの首根っこに歯を立てあっている。
「僕らも急ごう」
そう言って僕も鳥型オーニソプターの手綱を引いた。フワリと宙に浮く。それから、天井に開いた穴へ向かっていくと、穴がぐんぐんと迫って大きくなってきた。やがて、その穴を潜り抜けると、僕らは、ジャングルの上空に出た。魔法ランドは沈没していく船のように傾いていた。ボンゴ川が逆流し、溢れた水は王子や小人、モンスターたちを火山の山裾へ運んでいた。火山を大きく回り込むと、さっきの漂流船と空賊船とが、ボロボロになっても、まだ大砲を撃ち合っていた。観覧車が眼下に見えた。と、ガキンッと大きな音がしたかと思うと、観覧車が台から外れて、転がり始めた。観覧車はゴロゴロと転がり、サーカスの天幕を押しつぶした。つぶれた天幕から、軽業師や踊り子、猛獣たちが悲鳴を上げながら、ようようの体で逃げ出したきた。
僕は、それを眺めて、あっ、と声を上げた。さっき、僕らを天幕の隙間から覗いていた少女がいたのだ。少女は逃げる曲馬に縋りつきながら、広場の中央へ向かって走っていた。少女は、僕の姿に気付くと、大きく手を差し出して悲痛な声で叫んだ。「一体、何が起こったの! お願い、助けて!」
僕は一瞬、助けに行くべきか迷った。しかし、後ろからバルクが冷たく言い放った。
「放っておけ、ただのロボットだ」
観覧車は、そのまま、端まで転がって、地上へと落下していった。ズシンッと凄まじいい轟音とともに魔法ランドがさらに傾いた。機関車も四頭立ての馬車も、サーカス団員たちも、少女も、馬も、踊り子も、もはや、地表で動くものは全て転がって地上へと落下していった。ジェット・コースターのコースも地表から剥がれ始めていた。崩れていく地面から一個の気球がゆらゆらと上がってきた。気球にはさっきのピエロがしがみついていた。ピエロは呆然とした表情で「一体何が……」と絞り出すように言った。
「ロボットたちよ、世界の終末だ」とそれを眺めながら僕は呟いた。魔法ランドは小さくてもロボットたちにとっては全世界だった。それが、僕らのせいで、突然の終焉を迎えてしまった。多少なりとも胸に痛みを感じないわけはない。
「いや、まだ終わりじゃなさそうだぜ」と、パズルが火口の方を指さした。見ると、二閃の炎が交互に噴き出している。火竜だった。
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