第8話 これはどこの島だ

 僕らは広場を奥へと歩いていった。すぐに火山湖のほとりに着いた。岸から伸びた艀に数艘の小舟が繋がれていた。対岸に朽ちかけた一隻の難破船が浮かんでいた。パズルが目を凝らして言った。

「あんなところに空賊船だ! マストが折れて、船体に穴が開いてる。砲弾でも受けて墜落したのかな」

「いや、あの空賊船…」と僕は言った。「少しだけど、湖面から浮いて動いている」

 難破船は、薄い霧のたちこめる葦の茂った湖面からわずかに船底(せんてい)を浮かせて、漂っていた。

「漂流船か。もしかして、まだ空を高く飛べるかも」とセブが言った。

「行ってみよう」

 僕らは、小舟に飛び乗り、水の中へと漕き出した。しばらく進むと、漂流船の見張り台や、船縁に人影が見えた。

「人がいる」と、僕は甲板を指さした。

 奇妙なことに、船乗りたちはみな俯きながら船縁に寄りかかり、ぶかぶかの服を着て、金壺眼で大口を開けて笑っている。

「みんな、こっちを見て笑ってるぞ」

 そう言ってセブは船に、おーい、と手を振った。

 返事がない。みんな笑っているだけで一言もしゃべらない。それどころか、全く動く気配がなかった。

「ちぇっ、また電気の切れたキャスト・ロボットかな」とセブが不満そうに言った。

「かもね」と僕。

「いや、違う」とパズルが引き攣った顔で叫んだ。「あれはみんなガイコツだ」

 よく見れば、口を開けて笑っているように見えたのはガイコツの開いたアゴだった。

 僕らは漂流船のそばまで小舟を近づけた。漂流船の船腹にはいくつもの大きな穴が開いていた。漂流船は船体を傾かせ、音も無く、湖面の上をゆっくりと水平に移動していた。

「おーい、まだ動けるロボットはいないのか」とセブが甲板に向かって叫んだ。しかし、船はシンと静まり返ったままだ。

「いたら返事しろ」とまたセブが叫んだ。

 すると、返事の代わりに、船縁から縄梯子が投げ下ろされてきた。それを眺め上げ、パズルが「上ってみよう」と言い、小舟を縄梯子の落ちたところまで寄せ、ためらいなくそれを登っていった。僕もセブもその後をすぐに付いていった。

 僕は船縁を飛び越え、甲板に降り立った。船縁にはガイコツがもたれかかり、甲板にもガイコツがいくつも転がっていた。甲板や側板は傷み、大砲は錆びていた。帆はボロボロに破れ、帆柱は折れ、綱が蔓のように垂れ下がっていた。見張りは望遠鏡をのぞいたままガイコツになっていた。

「幽霊船のアトラクションか」と、一番最後に縄梯子を這い上がってきたセブが甲板を眺め回して言った。

「船内を探ってみよう。まだ動いているキャスト・ロボットがいるかもしれない」

 そう言ってパズルは船尾楼へ向かっていった。僕らは船尾楼の内へと続く短い階段を下りて、木の扉を開いた。船室に入ると、薄暗く、中央に大きな木のテーブルがあった。部屋の隅には箱や麻袋が積まれ、その上に籠が置かれていた。天井から干し肉がぶら下げられていた。さらに奥の部屋へと進むと、そこは船長室のようだった。大きな窓からは明るい光が差し込んでいた。窓の下には机があった。机の隣に鳥かごがぶら下げられていた。カゴの中には赤いオウムがいた。机には三角帽子をかぶり、厚いガウンを着た男が僕らに背を向けて座っていた。鳥も男も、ジッと固まったままピクリとも動かなかった。

 座っている男を見てセブが言った。

「これは死んでるってこと?  それとも電気が切れてるのか?」

「船長みたいだが……」とパズルが机に近づいた。

 と、船長がピクリと動いた。ハッとして見ていると、船長の身体が斜めに少しづつ傾き始めた。そして、そのまま真横に倒れ、椅子から転げ落ちた。床に倒れた船長はガイコツだった。倒れた拍子に、頭部が外れ、床を転がっていった。僕らはガイコツを踏まないようにして机のそばに寄った。

 机の上には古い地図が広げられてあった。地図の中央には孤島が描かれていた。その周りには見たこともない文字と記号が書き込まれていた。

「これはどこの島だ」地図をのぞき込んでパズルが言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る