第7話 風のせいさ

 駐機場から『風の王子広場』と銘の彫られたアーチ型の看板の門を潜ると、だだ広い場所に出た。名前の通り、冷たい風が肌に突き刺さった。カタカタカタッと風向きを知らせる王子様の姿をした平べったい銅板が風に揺すられていた。見渡すと、小さな売店がいくつかあった。広場の中央に低いガラス張りの建物があった。その向うには火山が聳えていた。山裾には観覧車とジェット・コースターがそれぞれ左右に佇んでいた。僕らはそんな風景を眺めながら広場を突っ切っていった。売店はシャッターが下ろされていた。中央の建物のガラスはあちこち割れていた。僕らは、ガラスの破片を踏みながら、建物に近づいてみた。王子様やお姫様、小人の絵が描かれたガラス越しに中を覗くと、テーブルとイスが散乱し、ほこりが積もっていた。フロアには長いあごひげを蓄えた小人が何体かジッと立っていた。まるで氷の魔法にかけられてでもいるかのようだった。

「レストランだったのかな」とセブが言った。

「そうみたいだ」(僕)

「小人がいるけど」(セブ)

「ロボットさ。おそらく、あの小人たちがお客さんに食事を運んでいたんだろ」とパズルが言った。

「動いてない」と小人のロボットを見ながらセブが言った。

「バッテリーが切れてるんだ」とパズルが答えた。

 カウンターがあって、その奥に鍋やずんどうが見えた。魔法ランドへ来た同級生はここで親と一緒に食事をしたのだろうか。

「さあ、行こう」と、ガラスに張り付いている僕とセブにパズルが言った。「レストランなんて道路沿いにもあるだろう」

 たしかにそうだ。でも、ここで食べると値段と気分が違う。本当に、王子様とお姫様の結婚式に招かれ、小人たちに供されているような。

「あっちの方が面白そうだ」とパズルが言った。

 僕らは奥へと歩いて行った。右手を向くと、サーカスの天幕があった。天幕のてっぺんから気球が上って、風に揺れていた。

 と、ふと、僕は、サーカスの天幕の入り口が微かに揺れ、人の顔がのぞいた気がした。

「どうしたんだ? アキト」とパズルが僕へ訊ねた。

「今、サーカス小屋の中から、誰かがこっちを見ていたような気がしたんだ」

「こんなところに誰もいるわけないだろう。風のせいさ」

 左手を向くと、中世ヨーロッパみたいな酒場やホテルが並んでいた。通りには樽や荷箱、麻袋が乱雑に積まれていた。その中にヤギがジッと立っていた。

「空賊の港だ」とパズルが言った。

 空賊というのは空の海賊のことだ。大航海時代の海賊船のような帆船に乗って、大空を自由に飛び回っている。

「でも、空賊船がどこにも見えないや」とセブが言いながら、空を眺めまわした。僕とパズルも空を見上げた。空賊船はどこに見えなかった。

「おそらく、ここら辺の空を漂っているんだろ。人間が止めてやらない限り船乗りのキャスト・ロボットたちは空を冒険し続ける。バッテリーが続く限りね」とパズルが言った。

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