第5話 九官鳥が僕らに向かってしゃべった
僕は急いでかけ戻ってポッドに飛びついた。そして、這い上がるようにして乗り込み、床にしゃがみ込んでいるパズルの上にのっかって、その先にあるレバーを引いた。すると、激しい揺れは収まって、また空気を震わす微振動へと変わっていった。
「サンキュー」と僕の下敷きになったパズルが呻いた。
「うん」
僕は木登りがクラスで一番上手だ。身軽だったんだ。
パズルが、引き絞ったスロットル・レバーをまた徐々に開いていった。けれども、ポッドは、エンジンがウンウン唸っているだけで、離陸しようとはしなかった。
「プロペラに泥がからまってる。それで動かないんだ」ポッドの下を覗いているセブが言った。
「これ以上、スロットルを開くと、また、さっきみたいに胴体の方が揺れちまう。アキト、セブと一緒に梃子でポッドを泥の中から持ち上げるんだ」とパズルが言った。
「わかった」
僕は、ポッドから飛び降り、セブと流木を泥に埋まったポッドの船底の下に突っ込んで、それを梃子にして持ち上げる。二、三度目かに力を加えたとき、斜めだったポッドが泥水を掻き回しながら水平になった。プロペラが回転する音がして、ポッドは泥を周囲に撒き散らしながら、フワリと宙に五十センチほど浮いた。
「やった」それを見て泥だらけのセブが叫んだ。
「やったぞ」とパズルもポッドの上で叫んだ。
僕はただ黙って宙に浮くポッドを眺めていた。ポッドは、噴水の上の浮き玉のように、ゆらゆらしながら、1メートルぐらい浮いたかと思うと、地上すれすれにまで下がってきたりを繰り返していた。
「さあ、早く乗るんだ。出発だ」そうパズルが叫んだ。
僕らは返事をする暇もなく、ポッドが地上すれすれにまで下がったときを見計らかって、凄まじい向い風を感じながら、すばやくポッドに乗り込んだ。
「よし、上昇するぞ」そう言ってパズルはスロットルを開いていった。
ポッドから下を覗くと、真下では泥水が同心円状の丸い風紋を幾つも描き、その外の葦は、風の向きに従って、畳鰯のように薙ぎ倒されていた。さらにその周りでは青い草が風に煽られ激しく波打っていた。草むらに隠れていた鳥たちが飛び立っていった。野ウサギがポッドの真下を走り去っていった。向き直ると、パズルが無言で操縦桿とスロットル・レバーを握って慎重に魔法ランドへ向かって操縦している。もう一度下を覗く。土手道を下校中の子供たちが歩いているのが見える。その向うには、土手沿いの家々の屋根が見えた。
やがて橋が視界に入り、その上を通っている車が見えた。さらに、河が流れるのが見え、河原が一望にできるようになった。河水は夕日を照らし、その水面には魔法ランドの影を映し出していた。ポッドはグングンと上昇し、人や車はあっといううちに米粒みたいになっていった。僕の家も探した。けど、はっきりと見分けはつかなかった。見上げると、独楽を下から見上げたような魔法ランドの底が見えた。冷たい風が耳元でビュービューと唸りを上げる。魔法ランドの底が徐々に迫ってきた。円錐形した底は岩と蔓で覆われていた。蔓の間に夜鷹が止まっていて、僕らを見ると、鳴きながら翼を広げて、首を一回りさせた。幹にはうわばみが絡まっていて鎌首を上げ、舌を突き出した。まるで川を下るボートからガジュマルの森を眺めているようだった。上空から、怪しげな鳥の鳴き声がしたので、見上げると、一頭の大きな翼竜がポッドの上空をぐるぐると旋回していた。と、魔法ランドの方から一羽の九官鳥が飛んできて、ポッドの縁に止まった。九官鳥が僕らへ向かってしゃべった。
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