会社の先輩と後輩の青年の物語である。先輩はとある事情で会社を辞め、退職日の就業時間後、主人公は彼女を誘って飲みに行く。先輩の希望で二人はフェリーターミナルに向かう。
筋だけ語ればこれだけだ。しかし約三千字の短編にぎゅっと情景が詰まっている。入社以来面倒を見てくれた先輩の口癖「正解」。最後の日にもこの言葉を聞き、主人公はこれが最後になるのかと思いつつ、最後まで師弟関係から抜け出せない自分も見ている。退職は円満の域に収まったと推察するが、海に投げられた花束は割り切れぬ先輩の悔しさの象徴だ。フェリーの乗客の目に映る二人の姿は、こうありたいと願う主人公の願望だろう。断片的に語られるのに、記憶や場面が浮かび上がり付随する感情まで伝わってくる。
自由になった先輩。そして先輩後輩という関係から解き放たれた主人公。はたして彼女の隣に、主人公は立てるだろうか。