【六年ぶりに幼馴染と再会したら、なぜか同棲と猛攻が始まった。】SS『私の理想とあこがれの夫婦』

あすれい

第1話

本編はこちら


https://kakuyomu.jp/works/16818093087684972804


第43話と第44話の間のお話になります。



◆side里桜◆


「しゅーんくんっ。そろそろ一旦休憩にしない?」


 私は隣で夏休みの課題に取り組む隼くんへと声をかけた。開始からすでに1時間半ほどが経過していて、隼くんの顔にはわずかに疲れが見える。やっぱり適度な休憩は、効率を考えるうえでも大事だよね。


 まぁ、それだけじゃないんだけど。


「ん、そうだな。んじゃ今やってるとこだけ終わったら……」


「はぁい。待ってるね」


「わりぃな」


「んーん、頑張ってっ」


「おう」


 先にキリをつけていた私は、邪魔をしないように隼くんの横顔を盗み見る。真剣な顔でノートに視線を落とす隼くんは、とっても格好いい。


 ……やっぱり、好きだなぁ。


 小さい頃からずっとずっと大好きだった隼くん。もうすぐ告白してもらえるんじゃないか、そんな予感を抱いてから、私はずっとソワソワしているの。


 やっと隼くんと恋人同士になれる。長年の念願が叶う、だけじゃなくて、あこがれの存在に一歩近付けるんだって期待もあって。


 私の一番身近にいて、私の心をずっと掴み続けている二人。お父さんとお母さんは私の理想の夫婦なの。


 いつも仲良しで、喧嘩をしている姿なんて見たことがない。二人きりにしてほかっておけば、どこまでもイチャイチャしっぱなしなんだよね。


 ゴールデンウイークに帰省した時だって──


 おやすみを言って、二階の自分の部屋に戻ってしばらくすると、真下にある両親の寝室からキシキシとなにかが軋む音が聞こえてきたの。小さい頃はその正体がわからなかったけれど、高校生ともなればその意味するところは理解できてしまう。


 といっても、中学の頃からわかってたけどね?

 ほぼ毎週末の夜、聞こえてくるんだもん。


 まーたあの二人はっ。


 まったくもう……いくつになっても仲睦まじいのはいいけどさぁ、年頃の娘がいるってこと、忘れてるんじゃないのかなぁ?


 私は隼くんから離れて寂しくなっちゃってたっていうのに。


 でも、羨ましくもあるんだよね。私も、いつか隼くんとあんなふうにってずっと前から思ってた。たまに微かに聞こえてくるお母さんの声、とーっても幸せそうなんだもん。


 そういえば、前にお母さんがこっそり教えてくれたっけ。お父さんとの初めては、高校一年の夏休みだったって。つまり、今の私と同じってことだよね。


 だから──


「よし、終わったぞ」


「お疲れ様、隼くんっ」


「里桜もな。んんーっ……!」


 隼くんが身体を解すように伸びをして、脱力した瞬間を狙う。ぎゅっと抱きついて、引き寄せる。そのまま、隼くんの頭を私のお膝にご招待。


 さすがにまだお付き合いもしてない段階でそこまで攻めたことはできないからね、今はこれで我慢だよ。


「ちょっ、里桜、またっ……!」


「はいはい、暴れないのーっ。たくさん頑張った隼くんにご褒美だよぉ」


「いや、でもなぁ……」


「いいからいいから」


 照れくさそうにする隼くんは、さっきの真剣で格好いい表情から一転して、とっても可愛らしく見える。どっちの隼くんも、愛おしいって思う。


「ったく、里桜はいつも強引なんだよ……」


「でも、イヤじゃないでしょー?」


「当たり前だろ……」


「なら、もうしばらくこのままでね。よしよし、隼くん。頑張ったねぇ、偉いねぇ」


 優しく何度も頭を撫でると、隼くんは顔を赤くして黙り込む。しだいに、その口元が緩んでくる。


 えへへ、喜んでくれてるみたいだね。


 私は隼くんの顔を見下ろしながら、心の中で語りかける。


 大好きだよ、隼くん。告白してくれたら、私の気持ち、もっともっと伝えるから。


 私、頑張るよ。今までできなかったこともたくさんしてあげるし、ずっと隼くんを夢中にさせてみせるからね。


 そしていつの日か、私達もお父さんとお母さんみたいに──

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【六年ぶりに幼馴染と再会したら、なぜか同棲と猛攻が始まった。】SS『私の理想とあこがれの夫婦』 あすれい @resty

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