あこがれの人に告られたら、なんか冷めた

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

蛙化現象

 あこがれの人に告られたら、冷めた


 わーい。あこがれの先輩に、話しかけてもらっちゃった。


「キミは、ボクのことを好きって言ってくれていたよね?」


 わー。先輩の顔が近いよ! たまらん!

 

「は、はい!」


「実は……ボクもキミのことが、いいと思っていたんだ」


「え? は、はあ」


 わたしは、急激に冷めていくのを感じる。


 どうして? 相手と両思いだったんだよ? どうして、気持ちが遠ざかっちゃうの?


「付き合ってくれないか?」


 憧れの先輩が、わたしと交際したいと言ってくれた。


 しかし、わたしはどうしても、先輩を前のように好きと思えなくなっている。


「ご、ごめんなさい! 考えさせてください!」


 わたしは、逃げてしまった。


「わーん! トリえもん! どうして!? 教えて! どうしてわたしは、交際を断っちゃったんだろう!」


 わたしはカクヨムアニバーサリーの投稿で手に入れた「カクヨムのトリ」を抱きしめながら、ひとりごつ。


 しかし、ただのぬいが返事をしてくれるはずもなく。


「それは、蛙化現象だホー」


 してくれたよ! トリの降臨だよ!


「え? あんた、しゃべれるの!?」


「そうだホよー。キミがオイラを大好きな先輩に見立てて、ちゅっちゅしていたのも、全部知っているんだホー」


「ぎゃあああああ!」


 わたしは思わず、トリのぬいを壁に叩きつけてしまう。


「ごめんなさい! 痛かったでしょ?」


 我に返ったわたしは、落ちたぬいを抱える。


「気にしないでホー。それより、キミの症状は蛙化現象で間違いないホー」


「え? わたし、先輩の失態なんて見てないわよ?」


「違うホー。キミは作家志望のくせに、蛙化現象の意味を取り違えているホー」


【蛙化現象】の本来の意味とは、「好きな相手が自分と両思いだったとわかった際に、急激に恋愛感情が消えていく」現象を言うらしい。


「え? 相手の失態や言動に絶句して失望するって意味じゃないんだ!」


「それは、若い世代に広まってしまった誤用だホー」


「でも、どうして相手がカエルに見えてしまうくらい、嫌いになっちゃうの?」


「キミのプライドが高すぎるんだホー」


 蛙化現象を引き起こす女性の多くは、「やたらプライドが高い」という。

『どうして、この人は、こんなどうしようもない私が好きなの!? 自分は、こんなにも自分のことをキライなのに! きっとこの人は、こんな私を好きになるくらいだから、大したやつじゃないんだわ!』

 というのが、蛙化現象を引き起こす女性の心理だという。


「キミはどうしたいホー?」


「やっぱ、先輩と交際したい!」

 

「だから、プライドを捨てて自分を好きになったら、相手のこともまた好きになれるホー」


「わかった。やってみる!」


 こうして、わたしは自分を許すことを覚えたことで、先輩への思いを取り戻せた。


 ありがとう、トリくん!

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