妖魔、徒花5

 修の想定していたはこびにはならなかったわけだが、徒花を無力化することには成功した。


 修はカッパとの約束を果たすため、今となっては見ることが難しい、タイヤまでもが木製の台車に氷漬けの徒花を載せた。


 これは前もってカッパから借りていた物だ。

 カッパの目的はなんとかして徒花を無力化。そして対話をできるようにすること。


 当初の予定では天狗の力を応用して、風の枷で縛り上げるはずだったが今となってはどうでも良い事だろう。


「にしても、この氷、不思議だよな」


 触れてみれば冷感はある。

 しかし、修の体温を奪うばかりで、氷そのものが熱を奪っている様子はなく、一切溶けていないのだ。


 そんな氷漬けの中であっても徒花は意識を保ち、ずっと修と麗を睨み続けている。


「これは解けない氷なんです。なんでこんな事ができたのか、私にもわかりません。でも、解けない氷だ、と言うことは理解できるんです」


「ふーん。ようわからんな。……でも、そういや最初うちに麗がやってきた時、霊力の類がないと読めないはずの求人を読めたって言ってたもんな」


 そう言いながら修は麗の方を見た。


 麗はあまりにマジマジと見られているものだから少し恥ずかしくなって目を逸らしたが、修は観察をするのをやめなかった。


 天狗の血を引く修だ。目で見るだけでなく、特別な力を使い根源を探ろうとする。しかし、一切の霊力、魔力、ましてや妖力すらも感じられない。


 修の見る限り、麗はどこにでもいる普通の女子高生なのだ。


 ならばなぜこんな事が出来たのであろうか?

 不思議でならなかった。


「……でもまあ、とりあえずありがとうな。麗がいなけりゃ今ごろ俺は死んでいたかもしれない」


「いえ、私はいても立ってもいられなくて飛び出してしまっただけなので……」


「そうだったとしても俺は麗に救われた。本当にありがとうな」


「いえ、あの……」


「そういう時は素直に『どういたしまして』って言っときゃいいんだよ。ほら」


「ど、どういたしまして」


「うん。それでよし」


 ゴトゴトと音を鳴らし台車は山道を進んでいく。


 あと少しでカッパの根城にたどり着く。

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