一振りで未来を切り開く男矢尻要
片山大雅byまちゃかり
最初の打席
「八回の裏で10-0か。選手達には悪いが我々には明日がある。主力は休ませよう。今日は若手を試す日だ」
独立リーグ出身プロ二年目、矢尻要。俺は、高校時代に行けなかった野球の聖地で、プロのキャリアを積もうとしていた。
◇
振り返ってみると波瀾万丈な野球人生である。
高校三年間は強豪校の代打専門だった。守備、走塁、総合力では劣ってても、一振りに賭ける精神力は誰にも負けない。
そんな俺には夢があった。野球の聖地、甲子園の打席に立ってヒットを打つこと。だけど高校三年間では成し遂げれなかった。
だからプロ志望届を出した。この世界のプロ野球では、甲子園を本拠地にしているチームがある。結果を残して、一軍出場を果たせば甲子園に行けると思っていた。
志望届をだして、いざドラフト当日。しかし、ドラフトに矢尻要の名が呼ばれることはなかった。指名漏れだ。
ここで、選択肢が複数提示された。野球を辞めるか、プロ野球に行く望みに賭けるか。俺に野球を辞める選択肢は無かった。
野球を続けるには大学に進学するのが安定択である。しかし、俺は頭も悪けりゃ素行も悪い。大学野球で武者修行したくても、大学の勉強についていけない。
ならどうするかと思っていたら、近々独立リーグに所属している球団が、トライアウトを実施するという噂を耳にした。
渡りに船と思い、チャレンジした。守備、走塁はボロボロだったものの、打撃で結果を残してなんとか合格を貰ったのだった。
◇
その後、数年間独立リーグで揉まれて、一昨年育成ドラフトで指名されて今に至る。
感傷に浸っていると、前の打者がヒットを打ったのがネクストバッターサークル越しで見えた。ついに俺の出番だ。
『〇〇に代わりまして、矢尻要〜!』というアナウンスのコールが球場に鳴り響く。
歓声響く憧れの大舞台。独特な雰囲気。これが野球の聖地なんだ。
記念すべきプロ初打席、右打席、第一球。相手が投げたストレートに対して、景気良くフルスイングで応えた。清々しいほど当たらなかった。
落ち着け俺、そう言い聞かせる。だが、心臓の高鳴りは治ってくれない。
次の球がくる。今までと同じ様に、一振りに賭けろ!
二球目はスライダー。それを身体を崩しながら合わせにいき、それがジャストミート。痛烈なレフト前ヒットになった。
プロ初打席、プロ初ヒット。これ以上の結果は無いだろう。
俺個人の夢も、苦楽数年かけてやっと達成できた。次はレギュラーとして、ここに戻ってきたい。
一振りで未来を切り開く男矢尻要 片山大雅byまちゃかり @macyakari
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