【KAC20252】STARDAM!

龍軒治政墫

STARDAM!

 俺には、あこがれの先輩がいる。

 同じ高校の一つ上の女先輩。

 オートバイに乗る姿がかっこよく、同性の女子からの人気も高い。


 その先輩と話すことのあった俺は、少しでも先輩に近付きたくて、自動二輪の免許を取った。

 初のマシンとしてスズキ・ジクサー250を手に入れると、その話が先輩に伝わったのか、


「今度の週末、ちょっと付き合ってくんない?」


 と誘われた。

 断る理由なんてなかった。


    ★


 週末。

 先輩のヤマハ・YZF-R25と向かったのは、市の外れ。

 峠に向かう山道を進んでやってきたのは、木々に囲まれた駐車場。

 そこから奥へ歩いて橋を渡ると、目の前に黒っぽい巨大なコンクリートの壁が見えた。


「見よ! このコンクリートの芸術品を!」

 先輩は少し興奮気味に言う。


 俺たちが来たのは、ダムの下流側。

 そして、この大きな壁はダムの堤体。

 見た感じ、少し古めのダムに思えた。


「一番最初のは、大正時代に完成だ」

「大正時代!?」

 そりゃあ、古く感じる訳だ。


「その後二回拡張して、今の姿さ」

「はぁぁ……」

 ダムに初めて来た俺は、感心した。


「そして巨大な背中! これぞダムの醍醐味!」

「背中? 正面じゃなくて?」

「ダムはダム湖側が正面、下流側が背面だ。常識だぞ?」

「いや、そんなの知らないです」

「ちなみに右岸左岸は、下流を向いて右が右岸、左が左岸だ」

「逆とか、ややこしいですね」

「慣れれば問題ない。それにしても素晴らしい背中だ。抱きつきたいが、私には大きすぎる」

 と先輩が言うので、

「俺の背中はどうですか?」

 と、冗談めかして言ってみた。


「うーん……」

 先輩は少し考えながら数歩歩くと、

「えいっ!」

 俺の背中に抱きついてきた。


「!?」

 先輩の身体、思ったより柔らか――。


 しばらく抱きついたままだった先輩は、

「やっぱりダムと比べると、小さいな」

 と、ちょっと残念そうに言う。


「でも、私は好きだぞ」

「え、それってどういう……」

「さぁて」

 俺の言葉を無視しつつ身体を解放した先輩は、駐車場に向かって歩き出す。


「次は天端てんばだ! 早く来いよ!」

 先輩は俺を置いてさっさと駐車場へ戻る。


「待って下さいよ!」

 俺もすぐに先輩を追う。


 俺の中に芽生えた先輩への想いをせき止めていたダムは、決壊寸前だった。

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