憧憬神機ライラプス vow one!【KAC20252】
プロエトス
短編 「蒼天の向こう側へ」
空を見上げ、高く、遠く、手を伸ばす。
幼い頃からずっと、この寂れたちっぽけな村を飛び出すことに憧れていた。
ろくに畑仕事も手伝わず、日がな一日、
そんな俺の性分を見かねた両親は、あるとき、無理やり神殿で誓いを立てさせる。
「蒼天、引き裂かれ、虚空と変わらん限り。大地、消え失せ、
親父とおふくろは
――
山向こうに野盗が集団で居着いたときも……。
迷いこんできた貴族のお嬢を町まで送らされたときも……。
そして、
「この村だけが俺の生きる場所ってわけだな」
……って、いや、マジで参るぜ。これからどうしろってんだ。
幾日も掛けて墓穴を掘り、村の
「ん? ありゃあ、なんだ?」
どれくらい呆けていただろう。
突然、視界の端、空の一部から色が失われたかと思えば、続く轟音!
蒼から灰色……いや、銀色に変わった空に亀裂が生じ、大爆発と共に弾け飛ぶ。出来た大穴から無数の輝く粉塵に紛れて墜ちてくるのは人の姿か。
抑えきれない衝動に突き動かされるまま、知らず俺は駆けだしていた。
「はぁはぁ……鎧を着込んだ騎士……にしちゃあ、なんぼなんでもでかすぎらぁ」
そうして落下地点に追いつくと、そいつ――優に人の数倍はある巨人の騎士が、背中から地面へ向かって火柱を吹きながらゆっくり着地するところだった。
大地を揺るがし降り立った巨人は、その場で
見下ろしてくる顔は言うまでもなく鉄仮面。猛犬を
「うっわ、第一村人……ダサい
「大気中に
「サイアクぅ。こんなとこで適応パイロット見つかるわけないじゃん。詰んだー」
と、自問自答し始めたのは、その堂々たる巨体にまるで似合わぬ女の声二つ。
未だ呆気にとられるばかりの俺を
「っ!? ドクター! 敵機、下方より接近中!」
「うそぉ!? こん中でやり合う気!? これ以上、外壁に穴なんか
いきなりまくしたててきた巨人に
先ほど巨人が着地したときの比ではなく、地面が大きく波打ち揺らぐ。
大爆発と共に土砂を噴き上げ、出来た大穴から這い出てきたのは獣の姿だ。
やはり金属の鎧をまとう巨大な牛が、折りたたんでいた四足を伸ばして地を踏む。
「ハッ……ハハハッ、なんだ、こりゃ」
相対する巨大な騎士と獣、あまりの光景に俺の口から笑いが漏れる。
「くくっ、ハッ! ハハハハ! なんだ、これで……」
いいや、そうではない。
止まらない
地には巨大な亀裂と大穴が
――大地、消え失せ、
空には巨大な亀裂と大穴が
――蒼天、引き裂かれ、虚空と変わらん限り。
「これでもう
俺をこの小さな村に縛り付けていた誓いの前提条件は崩された。
かつて憧れた広い世界へ! なんなら、地の底へでも、空の向こう側へだって! もはや阻むものなど何もありはしない。
「そこのバカ笑いしてる第一村人! 早く逃げなさい! 少しでも遠くに、急いで!」
巨牛と相対しつつ巨人騎士が警告を発してくるも。
逃げる? 何を言っているんだか。
「ようやく掴んだ自由だぜ。邪魔しようってんなら怪物だろうと容赦しねえ」
「は? バカなの? ちょっと! なに、ボロっちい剣なんて抜いちゃってんの? まさか、それで戦おうだなんて思ってないでしょうね。ちょっと、ちょっと!」
「はすはす! くんかくんか! ドクター、お待ちくださいわん! 先程より計測していましたが、彼の放つ感応波はとてもとても興味深いですわん。どうにかして調べさせてほしいわん! ひょっとすると、この
燃え盛る憧れが胸を焦がし、今の俺はなんだってできそうだ。
「手始めに目の前のバカでけえ牛をぶっ殺してバーベキューとしゃれこむか!」
これが始まりだった。
後に十の銀河を股に掛けて暴れ回り、
ここから……伝説は始まった。
憧憬神機ライラプス vow one!【KAC20252】 プロエトス @proetos
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