【KAC20252】青き魔鳥と烏の魔獣~魔鳥ピイピイの日々~

豆ははこ

第1話 烏の魔獣は魔鳥様にあこがれる。

「なんで、僕だけ?」

 烏の魔獣、コクはかなしい声で鳴いた。

 兄妹は、毎日のように飛ぶ練習。

 それなのに、コク一羽だけ、父烏と母烏と、我が家、大樹の洞での留守番なのである。


「コクは、体が大きいから」

「そのうち、飛ぶ練習もできるよ。それよりも、お父さんと、魔果集めに行ってくれないかな? コクがいてくれると、助かるんだ」


 確かに。

 木の洞の家からどすんと落下しても、怪我ひとつない体。

 皆が嘴で運ぶ何倍もの量を、軽々と運ぶ。皆に褒められ、喜ばれる。

 魔獣にとって、魔力を溜めた魔果実、魔果は貴重な食料。それを一つや二つ、ではなく、十や二十、と運べるのだから。

 しかも、大樹から降りたはいいが、戻れない、などということもない。

 なんと、飛べない代わりに、羽を用いて、大樹をのぼって洞に戻るのだ。


 このように特異であれば、さすがに普通の烏であれば、親兄弟とも別れて暮らすなどもあるかも知れない。

 だが、コクの一族は烏は烏でも魔獣である。多少普通と違っていても、特に問題はなかった。むしろ、普通の烏よりも家族が寄り添って暮らしているほどである。


 そんなある日、コクは、情報通の梟から噂話を聞いた。

 なんでも、人族の住む街の大きな丘に、トリの降臨というものがあるそうなのだ。

 なんと、人族が『トリ』と呼び崇め奉るのは、魔鳥様なのだという。

 青く、美しく、目にも止まらぬ早さで空を舞うらしい。


 魔鳥。まとり、まどり、まちょう。

 魔獣の烏であるコクとはまったく異なる、膨大な魔力を持つ鳥のことである。

 両親も、おとぎ話や噂でしか聞いたことがないような気高い存在だ。


『そんなお方が飛ぶ様子をひと目見ることができたら』


 もしかしたら、自分にも、なにかが起こるかも。

 コクは、そう考えた。


 それは、コクが感じた生まれて初めての気持ち。

 あこがれ、だった。

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