第八条 リア充
翌日。
俺はうわのそらだった。
はじめて彼女が出来た。
ひとつ歳下の、めちゃくちゃ可愛い良い子だ。
昨日はもうケーキ屋も閉まっていたのでお祝いを別日にする約束をして、垂氷ちゃんは俺の部屋に弁当箱を取りに来て、帰った。
持ってこなくてもいいが取りに来るって意味だとは思わなかった。
『じゃあ、また。宗則さん……』
垂氷ちゃん、下の名前で呼んでくれるようになってた。俺も、慣れたら薫ちゃんって呼ぼう……。
豊子に自慢したいが、すぐ振られたら笑い話にもならない。紹介できるくらい更に仲を深めたらにしよう。
そのうち……えっちな事とかも……
小さく触れた唇の柔らかさを思い出す。
あああああ
死ね。死んでしまえ、俺。
あんなに良い子に俺はなんて邪な妄想を……
脳内に微量鎮静物質を合成する。よし、冷静になった。
一個下とはいえ彼女はまだ高校生。俺は彼女を守れる大人な男にならねば。
そうだ。彼女のお兄さん、いや、もう実質俺のお義兄さんとしよう。お義兄さんを助ける。後は全部それから考えよう。お見舞いも行かねば。
お誕生日祝いデートはするけど。
キスとかめちゃくちゃしたいけど。
吾妻さんにうまくいきましたと連絡すると、祝福のスタンプと彼女のためにも頑張ろうなと返信があった。
流石アニキ……もう一生吾妻さんは俺のアニキです。リスペクトします。あ、これはみっちゃんみたいでちょっとヤダな……。吾妻さんは一生俺の最高の先輩です。尊敬です。
講義を終えて、支部に向かう前に雑貨屋に寄る。ケーキは買うとして、折角お祝いするんだから垂氷ちゃんにプレゼントをあげたい。
何をあげたら喜んでくれるだろう。
彼女へのプレゼントが消え物はなんか嫌だから形に残るものをあげたい。
アクセサリーは重いかな?ペンダントやファッションリングなら許される?男女でデザインをずらしたペアアクセとか……。
でもやっぱりセンスを問われそうでそっと棚に戻す。
花とか服は俺にはわからないし、実用的なところでエプロンとか……
いや、普段使いするものはこだわってそうだし、キッチングッズはどうなんだ?
スマホで〝彼女にプレゼント〟で検索するが、よくわからないプレゼントの意味やマナーが羅列されていてうんざりしてしまった。
ケーキはオシャレなカフェでも良いけど、折角なら神楽坂さんに最終日のケーキ屋を聞いておくんだった。吾妻さんなら知らないかな……
俺は完全に浮ついていた。
だから気づかなかった。
壁にかけられた鏡に目を向ける。映るのは明るい店内にそぐわない、ボロ布に包まれた巨大な眼球。
「え」
俺が解放者からの攻撃を自覚したのは、肉体から引き剥がされる瞬間だった。
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