第七条 垂氷薫

垂氷ちゃん

垂氷ちゃん

垂氷ちゃん!


 チャットアプリの既読はついていない。

電話をかけても繋がらない。

学校は終わっている時間だ。

家は留守だった。

バイト先にもいない。

協会の支部にも行ってみた。

ショッピングモール。

高校生が多いファーストフード。

どこにもいない。


走って

走って

日が落ちて暗くなってきた公園で、俺は垂氷ちゃんの魔術回路を探す。

会いたい

意識すると、なんだか胸が苦しくなった。

魔術素子はひとりひとり少しずつ違う。垂氷ちゃんにも垂氷ちゃんだけの色や香りがある。


「垂氷ちゃん……」

反応はない。勢いだけで飛び出せばそりゃあこうなる。

いつもの公園のベンチに座り、肩を落とす。

何をやってるんだろう、俺は。

こんなことをしてみっともない。

「……何してるんですか?こんなところで」


 ベンチで項垂れる俺を、彼女は覗き込む。

「垂氷……ちゃん……?」

「はい、垂氷です」

「……どうして、ここに。連絡……」

「会いたいってチャットが入ってたので探してました……。お返事したの、やっぱり気づいてなかったんですね」

通知マーク。走っていて気づかなかった。

「……」

「蝸牛さん?」

「俺、垂氷ちゃんの事が好きだ」

もう少しムード作りとか、プレゼントとか、色々踏むべき手順や段があったかもしれない。

でも、もう垂氷ちゃんの顔を見たら自分の気持ちが止められなくなっていた。

「か、蝸牛、さん……?」

「こないだは俺、かなりキモかったと思う。本当にごめん。傷つけるつもりはなかったんだ」

「あの」

「俺、あの時垂氷ちゃんの事で頭がいっぱいで、最近忙しくて、なんかおかしくて。でも、ずっと君の事が頭から離れなくて」

何いってんだ俺。

「好きなんだ。垂氷薫ちゃん。俺の彼女になって欲しい。彼氏、いますか」

「……な」

な?

「な、んで。彼氏、とか、そんな変なこと、言うんですか……」

 ボブカットから少し伸びてきた襟足も可愛いし制服の上に羽織ったゆるいベージュのカーディガンもめちゃくちゃ似合う。可愛い。抱きしめたい。

 こんなに可愛いんだから告白だってされ慣れてるかもしれないし、もしかしたら彼氏だっているかも知れない。うう、考えただけで胃に穴が空きそうだ。

「変、かな」

「変、です」

「だって垂氷ちゃんは可愛い」

「可愛いくない、です」

「可愛い。そういう照れ屋なところもすごく可愛い」

 俺は顔を上げた。垂氷ちゃんの顔はまだ耳まで真っ赤で、困った表情も、下がった眉も、首にかかる後れ毛も、可愛い。何もかも愛しい。

「……き、今日」

「うん」

「わたし、誕生日なんです……」

「………………」

「友達とお誕生日会、してたんです。今日」


俺の胸中をブリザードが吹き荒れる。

「ごめん……俺、全然知らなかった……。お誕生日おめでとう……」


本当に知らなかった。好きって気づいたのに、毎週のように会っていたのに、聞いてすらいなかった。本当に最低最悪だ。


「彼氏さん……いません。いたことも、ないです」

「うん……」

「誕生日プレゼント……宗則さんがいい、です。わたしの彼氏になってください」

垂氷ちゃんは少し屈んで、ベンチに座る俺に小さくキスをした。



9月の夜、まだ少し暖かい秋の公園。

生まれて初めて、彼女が出来た。

俺は、彼女のものになった。

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