千穂の家族③

 夕方、千穂はキッチンで夕飯の支度をしていた。

 美優はリビングのテレビでアニメを見ている。


「何かあったら、ママに話してね」


 千穂はその言葉を伝えるだけで精一杯だった。


 娘がいじめに遭っているかもしれない。

 不安でたまらないが、本人に直接聞くわけにもいかず、どうしたらいいのか悩んでいた。



 千穂は19歳という若さで娘を妊娠し、20歳で出産した。いわゆるできちゃった婚だ。

 それから専業主婦として家事育児に専念してきたが、美優が小学校へ入学したのを機に社会復帰を考え、求人誌を見ては面接を申し込んでいるが、いまだに再就職先は見つかっていなかった。


「ゆっくり探せばいいんだよ」


 千穂が焦りから不安を吐露すると、夫の一平いっぺいは決まってこの言葉を掛けるのだった。


 一平は千穂より10歳上の36歳。元は職場の上司で、二人は職場結婚だった。

 アプローチをしたのは千穂からで、仕事や人間関係の悩みを相談しているうちに交際に発展したのだ。

 

 

 


 

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