7×60 新皇になった僕は戦に明け暮れる

ポテ吉

第1話 序

 軍馬の嘶きと何語とも解らない怒号。

 僕はいつもの南蛮具足に身を固め、緋猩々の陣羽織の裾を流し、キツカタを腰に佩いた。

 棚の兜の金色の日輪に、いつもと変わらない十七歳の顔が映っていた。


 ティピーという簡素な天幕を出ると嘘のように喧騒は止み、四万の兵士が膝を付き、息を呑んで僕を見つめた。

 四十六部族の戦士たち。言語もそれぞれに違う。

 ワンパノアグ族長メタコメットが、片膝をつき控えている。

 マサチューセッツ州ニュープリマスの荒野は、どこまでも広く、空はぬけるように青い。


 僕はシンノウと呼ばれている。

 キリスト教圏の国々で、サタン以上の最凶の存在と忌み嫌われている。

 イギリス、フランス、オランダ、スペイン、この地を侵食する入植者。


 入植者対先住者の戦いは、僕たちの介入により白人対有色人種の戦いに変貌した。

 入植者は、優生な白人が虫けらにも劣る有色人種に負けるなど露ほども思っていなかった。


 神に選ばれた崇高な人種 ──

 それが白人だと信じ込んでいる。


 その考えを根底から覆したのは、極東の小さな島国の軍隊だった。

 取るに足らないはずの有色人種の軍隊。

 シンノウグン ──

 なめきっていた白人を圧倒的な武力で撃破し、次々に植民地を壊滅させた。


 それが僕たちだ。


 数万の血が大地に流れる。

 いつものことだ。


 この世界に来て百年が過ぎた。

 生きるために何万もの人を殺している。

 力なき弱者は蹂躙される。無慈悲で残虐な世界。

 平和、人権、平等。欲しければ力で奪い取る以外、術は無い。


 支配者の血で歴史を塗り替える。

 そう、あの日から僕たちがやってきたことだ。


 僕は高々と拳を突き挙げ叫んだ。

 鯨波が荒野に響き渡る。

 また、闘いが始まるのだ。

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