モモの雛祭り
蛇部 竜(ダブリュー)
モモの雛祭り
3月3日、とある命が産声をあげた。
「産まれたな・・・、3人目にしてようやくか・・・。」
その産まれたばかりの赤子を抱きかかえ、父親が呟いた。
「ええ・・・。」
赤子の母親は今日、産まれた赤子の今後の運命を思い、どこか声が浮かない。
「名前はどうする?」
赤子の父親が母親に尋ねる。
「実はもう決めてるんです、この子の名前は―――。」
―――16年後。
「三
とある大きな家に顔は美形だがどこか醜悪さを感じさせる若い男が目の前に膝まづく3人の男に尋ねた。
3人の男達はそれぞれ「怒った顔」「泣き顔」「笑い顔」の表情をしていた。
「ハイ、右
笑い顔の男が言った。
三仕丁の前にはそれぞれ紐に繋がれた着物の女性が膝立ちになっていた。
右にいる怒り顔の男の前には肩ほどの長さまでの髪をした女性。
左にいる泣き顔の男の前には短い髪の女性。
そして真ん中にいる笑い顔の男の前には立派な長い黒髪の見目麗しい人物がいた。
右随身は一目で笑い顔の男が連れてきた人物が気に入った。
「なんと美しい!気に入った!我はこの女を嫁にするとしよう!」
自身の連れてきたものが選ばれて他の仕丁に勝ち誇った顔をする笑い顔の男。
右随身は笑い顔の男が連れてきた人物に尋ねる。
「我の嫁になる女、答えよ、そなたの名前は?」
黒髪の人物は答えた。
「・・・『モモ』と言います。」
「ほう、『モモ」・・・。名前も可愛らしい。ますます気に入った!」
機嫌が良くなる右随身。
泣き顔の男が尋ねる。
「・・・あの~、右随身様・・・。我らが連れてきた女はどうしましょう・・・?」
右随身が残りの二人を一瞥する。
「・・・まぁ、残りの二人も顔は悪くない。モモ程ではないがな。
麗しき女が他の男に盗られるのも、どうも気に入らん。
特に『左随身』みたいな奴にな。
だから―――。」
右随身の顔がどんどん醜く変わり、身体も大きくなっていく。
「―――残りの二人は我が責任を持って食べてやろう。」
右随身は世間でいう『鬼』のような姿に変化した。
三仕丁たちも同じく小鬼のような姿に変わった。
「―――ようやく姿を見せたな、鬼共め。」
モモが―――、いや残りの二人の女性も口元を歪めた。
―――その刹那、モモ以外の女性が泣き顔と怒り顔の小鬼を蹴り飛ばした。
蹴られた二人の小鬼は爆発したように身体から火花が散り焼けこげる。
「「灯をつけましょ、爆弾に~♪ ドカンと一発、鬼さんに~♪」」
二人の女性がハモりながら「雛祭り」の替え歌を歌う。
「ナ~イス、サクラ姉さん、ヒナ姉さん。」
モモが笑いながら呟く。
「ヒィィ・・・!」
残った笑い顔の小鬼が怯える。
3人の縛られてたヒモが燃えてほどける。
「キ、貴様たちは、一体・・・!?」
右随身が驚きの声をあげる。
「足袋に鬼に効く爆薬粉、仕込んどいて正解だったね。」
髪の長い女性「サクラ」が髪の短い女性「ヒナ」に言う。
「ね、私の言った通りでしょ、サクラ姉さん。
―――さぁ、モモ、後はアンタに任せたからね。」
モモは頷き着物の中から小太刀を取り出す。
鞘を抜くと桃色の刀身をした刃からうっすらと桃の香りがした。
「まさか、貴様!?
―――言い伝えにある、あの・・・!」
「―――悪しき鬼よ、穢れを払う桃の力の前に滅せよ!」
モモが右随身の身体に小太刀を突き立てた。
右随身の身体は聖なる力を注ぎこまれ、崩れ落ちた。
「右随身様・・・!
これは他の方々に伝えねば・・・!」
笑い顔の小鬼は右随身が滅びるのを見て一目散に走って逃げた。
「あ!しまった!」
ヒナが走って追いかけたが、逃げられてしまう。
「ごめ~ん、逃がした。」
「まぁ、あんな雑魚、ほっといても大丈夫でしょ。」
サクラがヒナをなぐさめる。
「何はともあれこれで幹部クラスの一匹は倒せたね。」
モモが刀身を布で拭く。
「まぁ、まだまだこれからだけどね、後は『左随身』に『五人囃子』に『三人官女』、それに・・・」
サクラが残りの大鬼たちを指で数える。
「『殿』と『姫』・・・、道のりはまだまだ長いね・・・。」
モモがため息を吐く。
「・・・それにしても、やっぱ納得がいかないな~」
ヒナが口を尖らせる。
「何が納得いかないの、ヒナ?」
「だってサクラ姉さん、私たちもこ~んなに可愛いのに、選ばれたのはモモなんだよ。
モモは『男の子』なのにさ~。」
桃の節句に産まれ、魔を払う運命を背負いし少年がいた。
名は『モモタロウ』
彼は二人の姉と共に邪悪な鬼を払うために戦う。
―—サクラがいる。ヒナがいる。
―――そしてモモタロウがここにいる。
モモの雛祭り 蛇部 竜(ダブリュー) @double_double
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