第47話「母子愛と依存」
俺たちを乗せた船は、順調に大阪の港町へとむかっているらしい。
俺は母さんと一緒に船室へと向かい、窓から外の海を眺めていた。
「ねぇママ?」
俺がそう切り出すと、母さんは笑顔を返してくる。
「なぁに? 雄飛ちゃん」
そんな母さんの笑顔を見ていると、照れくさいような恥ずかしいような気持ちになるのだが……。
なんだか今は、無性に甘えたくなってしまう。
「ママ、抱っこして?」
俺がそう言って両手を広げると、母さんは頬を赤く染めながらも、優しく俺を抱き上げてくれる。
「はい♡ママに甘えていいよ」
俺は母さんの腕の中にすっぽりと納まる。
なんだか妙に恥ずかしくなってしまった俺は、母さんの胸に顔を埋めるのだった。
「ふふっ、雄飛ちゃんは甘えん坊ね」
そんな母さんの優しい声を聞きながら、俺は頭をなでてもらう。
「ママ……」
なんだか自分で言っていて恥ずかしくなるけど、今はこれでいいと思う。
「うん?」
俺は母さんの胸に顔を埋めたまま、言葉を続ける。
「ううん、呼んでみただけ」
「ふふ、いつまで経っても可愛いなぁ、雄飛ちゃんは」
そう言いながら、俺の頭を優しくなで続ける。
しばらくそうしていると、俺は段々と眠たくなってきてしまった。
「ママ……」
俺がそうつぶやくと、彼女はゆっくりと俺の体を揺らす。
「ふふ、疲れたのかな? ゆっくりおやすみ?」
その心地よさに身を任せていると、俺の瞼は次第に重くなる。
「……雄飛ちゃん」
そんな俺の様子を愛おしそうに眺めながら、彼女は俺の名前を呼ぶ。
「おやすみ」
俺はゆっくりと眠りに落ちていくのだった。
「……ちゃん、……雄飛ちゃん……」
俺を呼ぶ母さんの声がする。目を開けると、先ほどと同様に俺を抱きかかえたまま、母さんが微笑んでいた。
「あ、ママ……俺寝ちゃったんだ……」
俺がそう呟くと、母さんは何も言わずに俺の頭をなでる。俺はそれが心地よくてまた眠ってしまいそうだった。
「そろそろ大阪に着くみたいだよ。気分は大丈夫? 船酔いとかしてない?」
母さんは俺を抱きかかえたまま、優しくそう聞いてくる。
「うん……大丈夫」
俺がそう答えると、彼女は安心したように微笑んだ。
「そっか。よかった」
それから俺と母さんは、茉純さんと彼女に付き添っている華怜のところに向かう。
茉純さんも少し元気を取り戻したようで、華怜と笑顔で話をしていた。
「茉純さん、もう大丈夫?」
俺がそう聞くと、彼女は少し驚いたようだったがすぐに笑顔になる。
「雄飛くん、舞歌さん……。ええ、もう大丈夫よ。心配かけてごめんね」
彼女はそう言って俺たちに頭を下げる。
そうこうしているうちに、船が港へと到着する。
船を降りた俺たち。
活気ある港を見て、同じ日本なのに俺たちが乗せてもらった鎌倉の港とはまるで別世界のように感じられた。
俺たちはすぐにでも岡山に向かうつもりだったけど、もう夜に近かったため、今日はホテルで一泊することに決めた。
部屋は俺と母さん、華怜と茉純さん、それぞれの母子で分かれる。
「ゆっくり休んで」
「じゃあ、また明日ね」
そう言って2人は、それぞれの部屋へと入って行った。
「ママ、俺たちも寝ようか」
俺はそう言ってベッドに入るが、母さんは窓辺の椅子に座り俺を見つめていた。
「うん!そうだね。じゃあ雄飛ちゃん、ママのお膝においで」
母さんはそう言って自分の膝を叩く。
「……わかった」
恥ずかしいけど、俺は母さんの膝に頭を乗せて横になった。
すると、彼女は俺の頭を優しくなで始める。
なんだろう。今日は本当に、母さんに甘えたくなってしまう。
母さんの温もりが欲しい。安心したい……。
「ママ……。俺……俺ね……」
俺がそう切り出すと、彼女は俺の頭をなでる手を止めずに俺に優しく問いかけてくる。
「なぁに?雄飛ちゃん」
俺はそのまま言葉を続ける。
「えっとね、今日さ……本当に怖かったんだ」
俺がそう言うと、母さんの手も震え始めた。
「そう、だよね……。ママもだよ。まだ信じられないし、信じたくないし、……何より雄飛ちゃんの悲しい顔はやっぱり見たくないなって……」
母さんはそう答えながら、俺の頭をなでる手も震えてきてしまった。
俺はそんな母さんに寄り添いたくなり、体を起こすとそのまま彼女を抱きしめた。
「ママ……」
俺がそう言うと、母さんは俺をぎゅっと抱きしめてくれる。
「うん……大丈夫だよ」
彼女はそう言って、俺の頭を優しくなでてくれる。俺は彼女の温もりを感じつつ、そのまま言葉を続けた。
「でもさ、俺気付いたんだ。1人じゃないって。俺にはママが居てくれて、華怜も茉純さんも居るし……。それに……」
そこまで話したところで、母さんは俺を抱きしめる力を強める。
「ママ……?」
俺がそう言うと、彼女はゆっくりと俺から離れる。それからとても優しい笑顔を俺に向けてくれるのだった。
俺はその笑顔に見惚れてしまうと同時に、ドキドキと胸が高鳴るのを感じていた。そして何より、母さんがどこかに行ってしまうのが、酷く恐ろしく感じられた。
「ママ……ママのこと大好きで大好きでたまらなくて……。ママぁ! ずっとずっと一緒に居てよ。もうどこにも行かないで……お願い……」
俺はそう言って、母さんに縋りつく。すると母さんは再び俺を抱きしめてくれた。
「ママも大好きだよ、雄飛ちゃん」
彼女はそう答えると、俺の頭を優しくなでる。
「今日は一緒に寝ようか?ママが、雄飛ちゃんが寂しくないように抱きしめててあげるから」
母さんはそう言うと、俺をベッドに寝かせてくれる。
そんな俺を見て、彼女は優しく微笑む。
「おいで♡」
母さんはそう言って両手を広げる。俺は吸い込まれるように母さんの胸元に顔を埋めた。すると……彼女の温かな体温が俺に伝わる。
「おやすみ、雄飛ちゃん」
彼女はそう言いながら、俺の頭をなでてくれた。俺はそんな母さんの温もりに包まれながら、ゆっくりと眠りについたのだった。
翌朝。
目を覚ますと、母さんはまだ眠っていて、その寝顔はとても安らかだった。
いつもなら俺より絶対に早く起きている母さんだけど、あんなことがあったんだ。気持ちの整理もまだついていないはず……。
ゆっくり寝かせておいてあげないと。
俺はそう思い、母さんの頬を優しくなでる。
すると、彼女はくすぐったそうに顔をわずかに動かすが目を覚ます様子はない。その様子に俺は思わず微笑んでしまうのだった。
「ママ……可愛い」
やっぱり俺は、母さんのことが大好きだ。
マザコンと言われようと、異常だと言われようと、俺はこの気持ちに嘘はつけない。
でも、このままだと絶対に良くないこと、だよね。
いつかは母さん離れしなきゃいけないのかな?
いや、当然だろう。このままだと、俺は……。
ふと母さんに視線を向ける。優しくて愛らしくて、どんな時でも俺を守って支えてくれる女性……。
それと同時に、魅力的な女性でもある。
体は小さい俺だけど、性的欲求は能力のせいで人の100倍近くある。入間さんからもらった薬で抑えているとはいえ、やはり年齢を重ねて思春期に近づくに連れて、俺の本能は強くなってきている。
母さんを魅力的な異性だと強く感じ始めてしまった俺は、彼女を抱きしめてその胸に顔を埋めたくなる衝動に駆られた。
すぐに入間さんからもらった薬を飲む。即効性のあるその薬は、すぐに俺の興奮を落ち着かせてくれる。
……だけどわかる。日に日に薬の効きは悪くなっている。
だからこそ早く俺の力の使い方をコントロールできるようにならないと……。
そしてOuroborosの野望に打ち勝って、俺は俺の本当の望み……七海との再会を果たして証明するんだ。
俺にとって伴侶となる女性は七海だと。たとえ生まれ変わっても、前世で誓った愛を今世でも貫くのだと。
だから、俺はもっと強くならないといけない……。
そして大切な母さんのことも、俺が守るんだ。
「ん……雄飛ちゃん……?」
俺がそんなことを考えていると、母さんが目を覚ましたようだ。俺は慌てて彼女に笑顔を向ける。
「……おはよう、ママ」
すると彼女も優しく微笑んでくれる。
「おはよう、雄飛ちゃん」
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