第42話「集うOuroborosのメンバー。雄飛の限界」

「く、くそ……。な、なんて力だ……この少年……」

 合原が苦しそうな表情で呟く。俺はそんな2人にさらに近づこうとするが……。

「!? 雄飛、下がって!!」

 何かに気付いたような華怜の声が聞こえ、彼女が俺を突き飛ばした。俺がさっきまでいた場所には、華怜が立っている。

 そして……。

 無数の光の矢のようなものが華怜を貫いた。

「華怜ッ!!」

 俺は思わず叫んでいた。

 彼女の体からは血は出ていないし。……よかった。どうやら命に別状はないらしい。


「華怜、大丈夫か!?」

 俺の問いに彼女はこちらを見ることなく、声だけで答えを返した。

「に、逃げ……て。私を……置いて……。母さんと、雄飛のママと……一緒に……」

 それは絞り出すような、苦しそうな声だった。

「華怜……? 何言ってんだよ! そんなの、できるわけないだろ!」

「……お願い。このままだと……全員……アイツに……」

 華怜は尚も苦しそうに言葉を絞り出して、俺たちに逃げるように訴えかけてきた。

 それでも絶対に華怜を見捨てたくない!

 俺は彼女の元に近付こうとした……が。



「よぉ、倉城くらしろ。いや、今は門宮華怜、だったか? 久しぶりだな」

「……白……始友……」

 現れた金髪にサングラスの男。……あの時、父さんや彩さんと会話していたOuroborosの幹部。華怜とは因縁のある相手……。

 一目見ただけでわかる。コイツは名女川や合原よりも格が上だ。


「雄飛、逃げなさい! ここは私が……」

 華怜が俺に向かって叫ぶが……。俺はそれを無視して白始友を睨みつける。

「お前、名女川や合原の仲間か?」

「ん~? 仲間ねぇ。ま、そういう言い方もできるな。俺らはOuroborosの一員だから、な。それよりも……会えて嬉しいぜ? 種吉雄飛、我らが神の父となる、偉大な種主しゅしゅよ」

 俺の問いに曖昧な答えを返し、こちらを種主と呼ぶ白始友。

「俺は種主になんてならない! お前らも許さない……。今、ここで決着を着けてやる……」

 その言葉と共に精力を循環させ、拳に力を籠める俺。


 そんな俺を見て、華怜は焦ったように目を見開く。

「ば、……ばか……。早く……! 早く、逃げ……て! ……コイツには……絶対に、かなわ……ない……」

 彼女はやっとの思いで言葉を発していたけど、俺は絶対に華怜も一緒に逃げるのを諦めるつもりは無い。

「お前はそこで休んでろ! 俺がコイツをやっつけて、一緒に帰るんだ!」

 俺はそう華怜に声をかけ、白始友に向かって突進していく。

 そんな俺に対して、白始友は……。

「おいおい、先輩の言うことはちゃ~んと聞いといたほうが身のため、だぜ?」

 華怜が先ほどくらった無数の光の矢のようなものを、手を翳すと共に出現させる。


 さっきの華怜を見てわかったけど、この矢のようなものに当たると、華怜のように動きを制限されてしまうらしい。

 1発も当たるわけにはいかない! 出方を見る前に、一撃で決めるんだ。

 俺は精力を一気に解放すると、白始友に向かって拳を振り上げ、そのまま彼の体に叩きつけた。

 だが……その攻撃はあっさりと受け止められる。

「なっ!?」

 俺の拳を受け止めた白始友は、ニヤリと笑ったまま俺に話しかけてきた。

「おいおい、折角ゆっくり遊んでやろうと思ってたのに、せっかちだねぇ。それじゃあ俺の動きについてこれないぜ?」

 白始友はそう言うと同時に俺の腹部を思い切り殴りつけた。その衝撃は相当なもので、俺はそのまま後方の建物の壁に叩きつけられる。


「ぐはぁっ!」

 そして次の瞬間には、華怜がくらったのと同じ、光の矢が無数に俺を貫いていた。

 体を何かが貫いていく感覚がある。だけど痛みは無い。ただ、痛みはないけれど、体から何か力が抜けていくような……。

 そんな感覚だ。

「うぐ、うぅっ……!」

 俺は思わず膝をついてしまった。

 ……華怜が動けない理由が分かった。これじゃあまるで力が入らない。



「惜しかったな、雄飛。あと少しだったものを……」

 その声に動かしにくくなった体が勝手に反応し、振り返る。

「父……さん……」

 白始友の隣に立ち、不敵な笑みを浮かべる俺の父さん……種吉秀。

 会うのはあの2年前の一件以来だが、高そうなファッションに身を包み、ますます羽振りがよさそうだ。

「おいおい、あんなことがあってもまだ父さんって呼んでくれるのか? 嬉しいねぇ、ハハハ」

「父さん、どうして……。なん……でだよ! なんで……こんなこ……とするんだよ!!」

 声がなかなか出ない。

 それでも父さんを睨みつける俺。だけど彼は余裕の笑みを崩さない。

「理由は2年前に説明済みのはずだが?」

 俺はその言葉に再び怒りが混み上げる。


「母さん……母さんを……見てよ! そこで……倒れてる! その名女川って……ヤツが、母さんに……酷いこと、したんだよ!」

 俺が怒りを込めて叫ぶと、父さんはやれやれといった具合で母さんの方に視線を向ける。

「……母さん? ああ、聖母な……」

 父さんは倒れている母さんを冷めた目で見ているだけだ。

「父さん! 母さんに謝れ!」

「……はぁ。雄飛、お前はまだ母親離れができていないのか? まぁその方がいいか。いずれお前たちは交わる運命なのだから」

 俺が食い気味に叫ぶと、父さはやれやれといった具合で俺を見る。

 俺と母さんが交わる……やっぱりコイツらOuroborosの連中は、俺と母さんを……。そして神とやらを誕生させる気なんだ。


「さて、それじゃあ今回の目的を果たすとするか。始友、今回は雄飛たちはいいんだよな?」

 父さんは、隣に立つ白始友に声をかける。

「あぁ、そうだ。今回のサブターゲットである種主と聖母に対する目的は達成したからな。メインターゲットはぁ……」

 始友はそこで言葉を区切り、何とか体を動かそうともがく華怜の方に視線を向ける。

 自分がターゲットだと知った華怜は、始友をキッと睨みつけている。

「……門宮華怜の捕縛、不可能ならば殺害が目的だったよな。もう動けないだろうし、さっさと捕まえて帰ろうぜ? 」

 父さんは軽い調子で始友にそう声をかけると、俺に向かって話しかけてきた。

「と、いうわけだ! お前の大切なお友達は、俺たちが連れて帰らせてもらうぜ?」

「ふ…ざけ……るな!! 華怜は、絶対に連れて行かせない!!」

 俺はなんとか立ち上がり、拳を握りしめる。だが、体の自由がまだ利かない。

 そんな俺を見て、父さんは鼻で笑う……。


「雄飛、お前はこの2年間何をしてきたんだ? 転生者として修行してきたんじゃないのか?」

 その言葉に俺は、心臓がドクリと大きく鳴る。

 ……俺は、転生者として修行をしてきた。だけど、また俺は……。

 俺に止めを刺すように父さんは言った。

「雄飛ぉ~、弱いなお前は。1人じゃ何もできない。母さんも友達も、誰1人守れない。お前は何の力も持ってないんだ」

 呆れたような、どこか蔑んだような、そんな視線を俺にぶつけてくる。

「は……なし……な……さ……」

 その間に白始友の命令を受けた、Ouroborosの構成員らしき男たちが華怜を拘束しようと掴みかかる。

 華怜は苦しそうな表情を浮かべながら抵抗するが、ダメージが大きいようでろくな抵抗ができないでいる。


「お前らぁあっ! やめろ!」

 俺は叫ぶも、やはり体が動かない。このままじゃ……華怜が。

「うっ……私はどうなっても……いい! だけど……お母さんと……雄飛と、雄飛のママは……見逃し……て」

 華怜は、俺を……そして母さんと茉純さんを庇おうとしている。

 クソ……俺はまた……華怜に守ってもらうのか……? いつだって守ってもらって……。

「クソォッ!! 動けぇぇぇ!」

 俺は叫んだ。自分の力の無さを嘆くように、叫ぶことしかできていなかった。


「雄飛……あなたならきっと自分1人でだって強くなれる……ここは私に任せて……大丈夫だから……」

 華怜は絞り出すようにそう言うと微笑んで見せた。その笑顔に胸が締め付けられる。

「クソ……。俺はまた、何もできないのか……」

 俺が自分の無力さに絶望していると、父さんは俺に向かって言った。

「雄飛。お前は弱いんだ。諦めることだな」

 そんなのわかってる! でも諦めることだけはできない! 華怜……。

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