夢幻の一刀(むげんのいっとう)

蟹蔵部

第1話 という世界に転生してたのが僕です

【まえがき】

 よろしくお願いします。

――――――――――――――――――――


 昔々のうーんと昔。この国には精霊さまがおったんじゃ。


 精霊さまはとてもお優しいお方でな。


 畑を耕しているのを見かければ、地の精に地面を柔らかくさせたり。日照りが続けば、水の精に雨を降らせたり。かといって雨が降り続けば、風の精に雲を吹き飛ばさせたり。魔物がはびこる夜の闇を、火の精に払わせたり。


 そうしてこの国の人々を手助けしてくれていたのじゃ。


 この国の人々も精霊さまに大層感謝してな。それはこの国が大きくなっても変わらなかったんじゃ。


 ん? そうじゃな。今、この国には精霊さまのお姿はない。それにはとても悲しい理由がある。


 それはな、隣国との戦争じゃ。


 人というのは、自分が持っていないものを他人が持っていると、それを欲しがるもんなんじゃ。お主らも覚えがあるじゃろ。あれが欲しい、これが欲しいとな。


 ほっほ、全部が全部悪いとは言わんよ。


 それでじゃ、隣国はこの国に、精霊さまをよこせと言ってきたんじゃ。


 もちろんこの国の王様は断った。精霊さまは共に生きてくださっている存在で、この国に属しているものではない。精霊さまの優しさから手伝ってくれているだけだ、とな。


 断られた隣国の王はとても怒った。それならば力づくで奪うだけだと攻めて来たんじゃ。


 この国の人々も精霊さまを守ろうと戦ったんじゃが、戦いばかりしていた隣国の兵士たちに次々とやられていった。


 それを見た精霊さまはとても悲しんだという。


 それでもこの国の人々は精霊さまのために戦った。けれど、ひとつ、またひとつと町が奪われ、ついには王様のいる町まで隣国の兵士たちはやってきた。


 この国の王様は精霊さまに最後のお願いをした。


 どうか逃げて欲しい。隣国の兵士は私たちがここでくいとめる。だから女子供たちとどうか逃げて欲しいと。


 この国の人たちからの最初で最後のお願いじゃ。


 精霊さまはそれはもう悲しんだ。


 作物が実ったと一緒に喜んだ人たち、子供が歩いたんだと一緒に笑った人たち、大切な人が天へ還ったと一緒に泣いた人たち、この国をもっと良くするんだと一緒に語り合った人たち。


 精霊さまはこの国の王様におっしゃった。


 私はこの国の人たちが好きだ。そんな人たちに守る力を与えたい。けれど、それをすると私は私でなくなるだろう。


 この国の王様は答えた。


 私たちも精霊さまが大好きです。だからどうか逃げて欲しい。今まで優しくしてもらった分をここでお返しさせて欲しい。


 けれど、精霊さまはご自身の体を、大きな大きな大樹へと変えた。


 そう、精霊大樹じゃ。


 精霊大樹から、ひとつの小枝が落ちてきた。小枝と言っても元が精霊大樹じゃから、人の背ほどもあった。


 その小枝は不思議とゆっくり落ちてきて、この国の王様がしっかりと受け取った。


 するとその小枝が、真っ白な大剣へと変わったのじゃ。


 王様はすぐに理解した。これが精霊さまのおっしゃっていた守る力なのじゃと。そして、精霊大樹となった精霊さまと、二度と言葉を交わすことはできないのじゃと。


 精霊さまとの別れに涙する人々の中から、王様が立ち上がった。真っ白な大剣を掲げて、精霊さまに感謝を伝えた。


 言葉を交わすことはできなくとも、感謝を伝えることはできる。姿は変わったとしても、ここに精霊さまがいる。だからここを守るのだと。


 真っ白な大剣を手にした王様は、今までのことが嘘のように隣国の兵士たちを追い返した。


 そうして王様が隣国との境にまで来ると、真っ白な大剣は元の小枝に戻った。


 そう、この力は守るための力じゃ。だからこの国から出てしまえば、その力は無くなってしまう。


 おお、良く知っておるのう。そう、これが今の〈白剣〉じゃ。〈白剣〉もこの国を出ると力を失ってしまう。


 こうして王様はこの国を守った。


 そして精霊さまは精霊大樹となって今もこの国を守ってくださっておるのじゃ。


 姿形が見えなくとも、精霊さまへの感謝を忘れるでないぞ。


 さあ、今日のおばばの話はしまいじゃ。


 ――――――

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 ――


 という世界に転生したのが僕です。

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