小柳梓に食べられるっ!
百合豚
第1話 追憶:完璧だった私
私、
生まれたときから優れていた容姿と家柄。一を教えれば、百を理解する圧倒的な頭脳。運動をすれば、私に勝てる子なんて男子にすらいなかった。
もはや神に愛されているとしか思えない。天は二物を与えず、なんてお笑い草でしかないのが私だ。
だが、もちろんそれに胡座をかいていたわけではない。より理想を、より完璧を目指して、できうる限りの努力を惜しまず、着々とキャリアを積んでいった。
かくして私の名は全国にとどろき、どの分野においてもトップクラス。高校にあがっても、それが続いていくものだと思っていた。
『負け……た……?』
高校に入って初めての中間テスト。私は些細ながらもミスをしてしまい、満点にはわずかに届かなかった。
だが、たかだか数点だ。これ以上を行く者などいるはずがない。
その予想は、簡単に打ち砕かれた。
『私が……二位……?』
廊下に張り出された成績表。五十位から一位までの名前が載るその紙面には、私の上に一人の名前があった。
『
全教科満点、トップオブトップ。私がいくらかの凡ミスをしたテストで、あろうことかオールパーフェクト。
人生初めての敗北。突きつけられる屈辱感。なによりも絶望。そして……一位を取れなかった自分への果てしない怒り。
いままで抱えたことのない感情たちをを鎮め。私は静かにその名前を睨む。
次こそは負けない、そんな気概を胸に強く刻んで─────
『一位……うん。当然ですね……』
いい加減クヨクヨせずに次に向かおう。そう思って、この場を離れようと振り向いたときだった。
凛とした声が耳に届いたかと思えば、私の視界に映る一人の少女がいた。艶のある黒い髪をなびかせ、透明感のある白い肌が、儚さを感じさせるような、そんな少女。
宝石のように煌めく灰色の瞳は、どこか浮世離れした美しさを突きつけ、小柄な肢体が、大人のような美貌に一握りの愛らしさをほどよくブレンドさせている。
すべての要素が紙一重でベストマッチしているのだ。調和のとれたアンバランスさという矛盾が、私の頭の中で浮かび上がる。
『あっ……隣のクラスの八坂……さん』
思わず見入ってしまっていると、その子と目があった。どうやら私のことを知っているらしく、眠たげな表情で「えっと……どうも」と挨拶される。
『え? あぁ……うん。えっと……ごめんね。私は君のことを知らなくて……』
『こっ……小柳、梓、です……』
『……ん?』
いま……私の目の前にいる子はなんて言ったんだ? 「小柳梓です」ぅ?
『……もう一度お願いできる?』
『……? えっと……はい。小柳梓、です』
こ、こいつかあぁぁぁぁぁ!!!!!!
私から一位の座を奪っていった張本人。私に初めての敗北と屈辱感を味合わせた人間の登場に、私の心は半ばパニックになっていた。
しかも、容姿が私レベルですごくいいときた。私の心がパンクするのには十分すぎることが、この短時間で起こってしまっている。
このときの私はまともに思考が回らなくて、いつもより少しおバカになっていた。スパゲティをスプーンで食べ始めるくらいのIQになってたと思う。
だから、あんな発言をしてしなったのも本意ではないわけで。実際は小柳梓のことを尊敬できる唯一の人間として、友達になりたかったわけで。
『小柳……私と勝負しよう』
『……は、い……?』
──────……一年後
「ホントに勘弁してください……」
「……ダメです。めぐちゃんにはお仕置きが必要そうなので」
二年生にあがって、高校生二回目の夏休み……の前日。
明日からの夏休みで、友達と遊んだり勉強したりと、忙しくも楽しい夏の思い出ができあがるんだ──────
そう思っていた時期が私にもありました。実際に高校は二年生が一番楽しいと勝手に思っている。
ですがどうしたことでしょう。私はいま現在、小柳の部屋のベッドで、小柳梓に押し倒されています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます