第13話 百合が百合であるために

私は息を整えて唾を飲む。

ドアノブに手をかける。力を込めてまわすとドアノブが動く。

どうやら鍵は開いているようだった。

「眞百合。」

「———百合。」

そこには眞百合がいた。


眞百合は仰向けになって空を眺めていた。

側によって立ったまま私も空を見る。

「ここで何を?」と私が問うと

「空見てた。」

「そう。」

会話が途切れる。どうしようかと頬をかく。

すると眞百合から話しかけてきた。

「告白うまくいった?」

「…? なんの話?」私は眞百合を見る。

眞百合は寝そべるのを辞めて立とうとしていた。

「優子ちゃんと付き合えるかって話だよ。さっき資料室から引っ張ってったじゃん。二人でいろいろ話をしてたんじゃないの?」

「…それは…誤解よ。」

「誤解?」

私は言うべきなのか一瞬迷う。

たった一言なのにこんなにも怖いもので焦りに飲み込まれそうになるものかと驚く。喉に異物でもあるのかと思うくらい私の声帯が動かない。

…。

口をパクパクさせるうちにだんだんと身体が熱くなる。

きっと私の顔は真っ赤だ。恥ずかしい。

もう恥ずかしさと怖さでどうにかなりそうだった。

「あ、わ、わさ…わたしが…私が…す、すす、好きなのは…」

ああ。私の口よ。動いてくれ。

身体が熱くて結果が怖くて震える私を眞百合はどう思う。

脳の処理の限界に達した私はパニックになる。でも伝えるんだ。

私の気持ちを伝えたい。その気持ちが私を動かす。

私は眞百合に指差し


「———私が好きなのはッ…眞百合!」


私の目の前に立っていた眞百合に指さして今の精一杯の声で伝えた。

眞百合の反応は嬉しいとでも拒否反応でもなく、無反応だった。

眞百合は言った。


「うれしいよ。私も百合のこと好き。でも…女の子同士で恋愛なんておかしいよ。」


×××


資料室で…違和感があった。

眞百合は私との関係をしきりに友達だと強調していた。

いや、実際にそうなのだが、あまりも強調するのは帰って不自然なのだ。

しかもあの雰囲気で友達だ友達だと言っている…これは私が自意識過剰だからだろうか。いやそんなわけない。その裏付けが優子の反応だった。

そうだよ。他人から見て私と眞百合はもうカップルそのものなんだよ。


「どうして。」私は真剣な顔で問う。

「この世は男と女が付き合うものだよ。」

「同性はよくないと?」

「よくないとは言わないけど…おかしいよ。」

「それは誰が決めたの。」

「…親。」

「…親の言いつけを守るのは立派だね。でもいつまで親の言うことを訊くの?」

「え?」

「それに親が絶対なんてありえないわ。」

「…。なんでそんなこと言うの。」

「だって親だって人間だもの。失敗もする。」

「…私の親がなにか失敗したっていいたいの?」

「違うわ。最終的には自分で判断しないといけないの。でも今の眞百合はそうじゃない。親を言い訳に使っているだけ。」

「———ッ! そんな。」

「同性で付き合う。それの何がいけないの!」

「自然じゃないわって両親が言ってたわ。自然の摂理に反する。非効率的な生産性のないただの人付き合いだって。」

「…それは何にも分かってないわね。自然ってのは勝手に人間が作った言葉よ? それに惑わされてはダメ。人間も自然の一部なんだから。それに自然の摂理ってなに? 子を残すことを言うのであれば方法はいくらでもあるわ。養子や他にも人間は脳が発達しているんだから。考えないと。それに…自然界にだって同性のカップルは入るし、なんなら性別変換する生物だっているわ。自然の摂理に反するなんてただの詭弁だわ。生産性だって子を成すだけが生産性効率を上げる手段じゃないわ。何より人付き合いに生産性を求めてるあたり…どうなのよ。」


どうでもいい。

そんな詭弁どうでもいい。

生産性だとか、自然だとか。

どっちでもいいよ。そこに正解なんて求めてない。


「でも、でも。」物事を受け入れられない子どものような態度を取る眞百合に驚く。あんなにギャルな子がここまで弱々しいところをみせるなんて。

私は眞百合を優しく抱きしめる。


「そんなことどうでもいいくらいに、私は眞百合と一緒にいたい。それだけ。眞百合はどうなの? 親がどうだとか関係ない。眞百合の気持ちを知りたい。」 


私が眞百合の耳元でそう囁くと眞百合の目から涙が溢れる。


「——————…一緒にいたい。私も百合のことすきだから!」



×××






新幹線の窓から景色を眺める。

しかし、どうも風情がない。

それは私が新幹線を移動手段の交通機関としか思っていないからだろうか。

電車はゆっくりで窓も大きいので風景を眺める余裕がある分…交通機関でも風情がある…なんてことを考えながら東京行きの新幹線に揺られていた。

結局、眞百合の両親との関係は上手くいかなかった。

諭すだけさとしても結局は、本人の不快感を諭すことは出来ないのでそれはもうしょうがないと諦めることにした。

なにせ人生は一度きりなんだ。親ばかりに頼ったり優先するのは違う。

優先すべきは自分と自分の周りだ。

そりゃ親との関係が良好ならそれに越したことはないが、まぁ時間はある。

そんなにのんびりは出来ないかもだが時間が解決するってこともある。

「東京駅ってもはいつも混んでるしダンジョンじみて嫌になる。」

キャリーバックを引きずってタクシーを捕まえて指定の場所まで連れってもらう。

着いたのは高級マンション。

私の今の住処。


高校卒業した後は大学に進学し、そのまま大手企業に就職。でも思っていた仕事と違って転職。ついでに起業した結果、結構儲かっちゃった。

「ただいまぁ―――むぐっ」

私が玄関のドアを開けると早速出迎え。

眞百合の抱擁と熱いキスをされる。

「ゆりー寂しかったぁぁ。」

「い、一週間じゃん。我慢してよ。」

「無理ぃ。」

もう限界なのかさらにキス。舌が入ってくる。おまけに服の下に手を突っ込んで私の肌を触って来る。くっ。

キスの気持ちよさに思わずキスの仕返しをしているとブラを外される。

ああ。もう。

眞百合の首に捕まって「もう好きにして。」といって抱っこしてもらう。

そのままベッドまで運んでもらう。

そう。

私と眞百合は付き合っている。高校からだから10年以上は確実か。

優子とはそのまま友達関係が続いている。よく続いたなあと思う。

優子からキスだけでいいからとせがまれ続けて、キス仲とかいう間からになってしまった時は、眞百合から優子と会うには相談せよとのお達しが来た。優子の言う通り私は快楽に弱い人間だったようで高校はセフレに抵抗感があったのだが、当時はもう、それはもう悶々としていた。大学時代はヤバイ。マジで眞百合と別れるまで行きかけたが流石に私も反省。もういまではラブラブである。優子が私と眞百合との関係をより深めてくれた…ということにしておこう。というか私は本当に快楽に弱いようで特に情熱的なヤツには弱い。というわけで優子事件以降眞百合とのセックスはそれはもうすごいんだから。

違う違う。

そんな爛れたというか肉体関係の話はいいんだ。

んでまぁ優子とは関係値と信頼関係があるのでなんとかなっている感じだ。

優子も結局は強引ってわけじゃないし。私が悪いんです。


南場とは良き友になった。

実は南場も私のことが好きなようで…今思うと私ハーレム状態だったんだなぁ。

南場とは結構やり取りしている。特に起業には手伝ってもらって、結局は社員になってもらうまでなった。まぁ友人同士の起業はうんぬん聞くけど、今のところ大丈夫だし、南場とはうまくいけそうな気がする。

まぁ南場の距離が近いのがちょっと怖いけど。

それに反応する眞百合もまた怖いけど。


私の両親は了承している。東京のマンションを購入して早数年。

今はここで眞百合と過ごしているわけだ。


あの日の告白からもうここまで来たんだなあと思う。

私は眞百合に脱がされてすっぽんぽんになってやることやった後風呂に入ってそんなことを考えていた。


「やっほー」

眞百合が風呂に入って来る。

「ちょっと。」


流石に今の眞百合は落ち着いた。ギャルと言うよりまぁ元ギャルって感じの雰囲気は残っている。髪は茶色になったし、だいぶ落ち着いている。


「私すっごい幸せ。」

眞百合が湯船の中、私に寄りかかる。

私は眞百合を背後から抱きしめる。

「私も。」


すっごい幸せ。

それは私のほうだ。

あの日、眞百合と出会って、ここまで来たんだ。

眞百合に告白してよかった。眞百合を好きになってよかった。

眞百合を手放さなくてよかった。

全ては気持ちを伝えなくては出来なかったことだ。

あの日、告白してよかった。


伝えるためには解放しなくちゃいけないんだ。

百合わたし百合わたしであるために


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百合が百合でるために 絵之旗 @enohata

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