第3話 私は初恋を知る
休日。
私は動けないでいた。
心がざわざわする。
まず衝撃だったのは、私が恋をしたかもということだ。『かも』というのは確信がないからだ。同性相手に恋愛感情を抱くなんて思ってもみなかった。そりゃ疑り深くなるものだ。本当に異性に興味はなく同性に恋しちゃってるのか…。惚れたのは間違いないけど…。実際に恋人になるってことは肉体関係にまで発展することだってるのだ。それこそ昨日の映画みたく肌と肌が溶け合うかのような抱擁とキス終いには…。いやいや、いまはそんなことはいいんだ。
ただ姫野に惚れたというだけなら、そういう同性との付き合いにたいして悩むだけでいい。ただ、私にはもう一つあった。
それは優子との関係だ。
姫野と仲良くなろうとすればするほどなぜか姫野に後ろめたさを覚える。
特になにかを貶すようなことをしているわけでもないのに。
それが私の身体を重くする大きな理由だった。
…。
優子とは幼いころからの友人だった。
頼りになるし、頼られたこともある。いい関係だった。
頼もしい存在で近くにいるだけで私は幸せな気持ちになるのだ。
家族のような…そう家族みたいな感じだ。
家族…いや、現実的には友人であって家族ではない。それは比喩だ。
つまり、距離が近すぎるんだ。距離が近いと相手のことも見えなくなる。
灯台下暗しだ。確かめればいいんだ。そうだ。
確かめよう。
この気持ち。
姫野と仲良くしようとすると優子に後ろめたさを感じる。
その理由を探るには…。逆説的にいってみるか。
優子と仲良くして姫野に後ろめたさが出るのか。
それで出たら…。
出たら。
…。
いや、答えは後だ。
行動するのが先だ。
うん。
×××
という訳で月曜日。
優子との帰り道で私はとある作戦を決行することにした。
することは一つ。優子と手をつなぐことだ。
一昨日の感触がいまだに思い浮かぶ。そして姫野の顔。
違う違う。今は優子のことだ。
よし。
「聞いてる? 百合ってば最近ぼーっとしてること多いよ。」
考えてばかりで耳が疎かだった。
「え、あ、いや、そうかな。」
「なんか本格的にギャルの転校生ちゃんに触発されてるかんじなんだ。」
「え、どこが。」
「ファッションとかさ、いままでそこまで気合入れなかったのに、最近はワンポイントのアクセサリー所々に入れてるの気付かないと思った?」
「うっ」
そうなのだ。姫野と仲良くしていくうちに姫野と同じことをしてみたいなんて思ったりしたのだ。バッグにピンバッジを付けたりスマホをデコったりキーホルダーマシマシにしたり…。せめてピンバッジくらいはつけようとバッグに付けたりしていたのだ。
私と優子はそれとは真逆のいわゆる陰の世界の住人であったのでそういうこともしなかったのだ。私は黒髪長髪の優子は三つ編みメガネの地味な女子高生でしかなかったのだ。
だが私は少しづつ変化してきている。それを素早く察知した優子なのだった。
「や、やっぱりかわいいは正義なんだなぁって。」
苦しいか?
「私も見たよ。転校生のギャル。すっげぇ可愛かった。同じ女子には見えないなぁ。」「そんなことないよ。優子も美人系だよ。」
「ありがとっ。でも決めるのは相手だかんね。そればっかしはなんともだよ。」
「本当に美人さんなのにー。」
「ギャルちゃんはどう思う?」
「へ?」
「ギャルちゃんよ。美人さん系?」
なんでそんなこと聞くんだろう。なんか姫野に執着しすぎているような。
私はいま、優子のこと考えたいのに。
「どっちでもいいじゃん。」
「よくないよ。」
冷たい声だった。心臓に突き刺すようなその声は優子からだった。
優子と一緒にいて初めてのことだった。
居心地のいい場所だったんだ。そんなこと今まで無かったんだ。
「優子?」
「知ってるんだからね? 最近、姫野さんと一緒に帰ってるの。」
「———。」
声が出なかった。
一瞬にして喉の水分がなくなったかのような感覚になる。
いや、実際になくなったのかもしれない。緊張が口の水分を飛ばしたのかもしれない。
「百合は私だけに頼ればいいんだから。」
右手で右手を握られる。そう。
恋人つなぎだ。姫野と同じように指をからめとられる。
私は反射的に右手を跳ねた。
その瞬間に優子の目から光が失われた。
目からは涙が出ていた。
「ごめん。」
そういって優子は走って行った。
「まって! 違うの。払ったのは嫌だったからじゃないの!」
私———気付いてしまって…。
とてもそれをいう雰囲気ではなかった。
走っていく優子を見つめて下を向く。我慢していた涙が落ちる。
優子目掛けて右手を突き出し手を握る
意図しない結果になってしまったが、私は気持ちに気付いた。
私に恋を芽生えさせた姫野。
でもその恋は初めてじゃないんだよ。
私の初恋は優子なんだよ。
仲良くしたいよ。
こんな別れは嫌だからね。
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