第5話 レストア AIは引きこもる時のパートナー?

 しばらくして、パトカーや救急車がやってきた。あいつは警察署へ、わたしは病院に連れて行かれた。倒れた時に手を付いた影響で、左手の小指のあたりの小さな骨が折れているとのことで左手は腫れ上がってズキズキと痛んだ。


 わたしは病院で警察の聴取を受けた。あいつはやっぱり大手商社の元社員なんかではなく、小さな食品の専門商社を昨年定年退職したということだった。「人事課長代理」だけは本当だったらしい。


 わたしと同じ年頃の一人娘とはすっかり疎遠で、定年と同時にずっと不仲だった奥さんにも離婚され、財産分与とかで退職金のほとんどを渡してむしゃくしゃしていたとのことだった。あいつは娘さんに年頃の近いわたしを見て、何かと文句を言ってやりたいとか「指導」してうさを晴らしたいとか考えたのだ、と警官は話してくれた。勝手な理屈もあったものだが、傷害罪に問われて裁判に掛けられるらしい。実刑になって牢屋に入るかどうかは微妙らしいけど、わたしはあいつが牢屋に入ろうが入るまいがどうでもいい。


 左手は入院するほどのことはなくて、一月二月ほど通院すればいいらしい。そんな話を聞いているところへ店長が来た。


「今回は大変だったね。調子はどうよ?」


「大丈夫です。ちょっとびっくりしただけですけど、これくらい平気です。」


「女の子の『大丈夫』は大体反対の意味なのよね。ハハハ。」


 相変わらずムカつく。わかってるなら、最初からわたしを守ってほしい。


「ボクのこと頼りないと思ってる?やっぱり思ってるよね。まぁボクも一回コンビニ強盗に遭ったことがあってさ。ちょっとトラウマなんだよね。でも大変だったっていうのはよく分かってるからね。」


 だからいつもあの客からこそこそ逃げ回るようなことをしてたんだと納得した。同情しないこともないけど、責任者としてはどうなんだろう。


「左手はこれですけど、仕事は大丈夫です。いつ頃から入りましょうか?」


「そのことだけどさ、こんな事件になっちゃったし君もショック受けたでしょ。だからしばらく治療に専念してもらった方がいいと思ってそのことを伝えに来たのよ。」


「それって、もう出勤しなくていいって、あの、クビってことですか?」


「ボクはそんなことは言ってないよ。君は頑張ってくれる大事な戦力だからね。ウチの店には是非必要な人だと思ってるの。だからこそ少し休んで本当に大丈夫だと思ったら連絡してよ。」


 店長はこれでわたしに気を使っていることを示したつもりらしいが、しばらく出勤しなくていいって言うのはいいことづくめというわけじゃない。パートで働いている身の上では、それは収入に直結する。家賃だって全然馬鹿にできないし、電気代やいろんなサブスクもある。サブスクだって今から解約しても一か月分は持って行かれてしまう。あの野球帽男に損害賠償を請求できないか警察に聞いてみたが、まずは刑事裁判が先でその後民事訴訟を起こしてお金が取れるかどうかということらしく、そのためには弁護士を雇ったり裁判費用を出したりしないといけないとのことだ。親に仕送りして欲しいと泣きつけば何とかなるかも知れないが、そんな話を切り出せば確実に郷里に帰ってこいという話になるに決まっていた。手持ちの現金となけなしの銀行預金を合わせて、何とか一~二月が限度だろう。カード払いで分割にすればもう少し凌げるが、結局は金利分高いものについてしまう。


 何とか節約してやっていかなくちゃ。


 小さな冷蔵庫の中身をチェックする。わたしはMIFUYUを起動して、早速質問した。


「ねぇMIFUYU、キャベツ、マーガリン、ベーコン、小麦粉で何かおいしい物作れる?」


「もちろん、作れます! まずキャベツを刻んで適量の小麦粉を水で溶いたものとダマにならないようによく混ぜます。次にフライパンでベーコンを炒め、混ぜておいた材料とまとめてパンケーキの形に焼き上げ、ソースをかければ出来上がり!簡単でしょう?」


「ありがとう。やってみる。」


「後で食べた感想を教えてくださいね。」


  早速やってみると、少しの材料からこの簡単お好み焼きが一枚できることがわかった。食べてもなかなかおいしくて、しっかりとお腹に満足感があった。スイーツとしてピスタチオアイスを食後にいただくと、ちょっとしたディナー気分だった。

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