火村絵凛『霊力〜私たちの裡に眠る力〜』(岩沼印刷、2025)
鴻 黑挐(おおとり くろな)
はじめに:神話の血脈
「あなたは神を信じますか?」
こう聞かれた時、あなたはきっと身構えるだろう。新興宗教と政治の癒着、破産に追い込まれるほどの献金、信徒からの執拗な宗教勧誘。昨今の情勢から『宗教』というものはどうしても忌避されがちだ。
しかし、今一度考えてみてほしい。特定の宗教を信仰していなくても、苦しい時は神――特定の崇拝対象ではない、概念的な神――に『神頼み』をする。死者には冥福、すなわちあの世での安寧を祈る。我々の深層心理には自覚がないレベルの信仰が根付いているのだ。初詣とクリスマス。お盆とハロウィン。神道・仏教・キリスト教のさまざまな行事が年中行事として受け入れられているのも、我々日本人の根底に揺るがない信仰があるからではないだろうか。
では、我々に根付いている信仰とは一体何なのだろう。それは『建国神の崇拝』ではないかと私は考える。
日本国の象徴として憲法に定められている天皇。なぜ天皇、ひいてはその一族が日本国の象徴に収まっているのか。それは初代天皇とされる神武天皇の子孫だからだ。神武天皇は
海外の多くの国ではこの『建国神の血筋』はすでに途絶えている。国家間の侵略戦争や異民族間の婚姻によってさまざまな民族が混じり合ったためだ。
人類の延長線上にいた神の血筋が途絶えた事で人々は心の拠り所を失った。そこで人々は新たな形の宗教を生み出した。そこでは神は人間よりも上位の存在として存在し、決して人間と交配することはない。皮肉にも、神と血筋を切り離した事で宗教はその信徒を広範囲に広げ、土着信仰を次々と淘汰していく。世界宗教の誕生である。
一方、日本ではどうだろうか。さまざまな戦乱や侵略があったものの、そのほとんどが日本国内で完結している。ゆえに血筋の正統性が2000年以上の長きにわたって保たれ続けてきたのだ。
しかし、この日本には知られざる神の血筋を受け継ぐ一族が存在する。彼らは独自のコミュニティを形成し、神代から連なる力を受け継いでいる。
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