第27話 牽制

 オウエンとユーシェンが夫婦となり、いまの離宮にこもったのはそれぞれ四と六の年のころであった。

 離宮に刺客が入りこんできたのは、婚姻から間もなくのことだった。


「オウエンさま!」


 刺客はすでにオウエンの魔気によって、八つ裂きにされていた。刺客の血で汚れた床に立ち、四歳のオウエンは冷たい目をしていた。無事を確かめるユーシェンに「触れるな」と言った。「慣れている」と。

 オウエンはずっと、王宮でも命を狙われてきていた。そして王家は、男妻を娶らせてなお、メイラの血を引くオウエンに対し、警戒を緩めることはなかった。幾度となく離宮には、王宮から刺客が放たれた。

 年端もいかぬ子供、それも息子相手に――それからゆうに四年の間、幾度も、呪者が、間者が、入り込んだ。


 それゆえか、出会ったばかりのオウエンの目の奥は、不信と怒りに凍えていた。無理からぬことだった。父に疎まれ、あまつさえ死を望まれ、誰が笑っていられよう。オウエンは、連れてきた毒見役にさえ、毒をもられる状態だったのだ。

 ――それでもオウエンは、ユーシェンを信じてくれた。


「ユーシェン、僕には君だけだ。何があっても僕は君だけは信ずる」


 そう言って、手を握ってくれた。


 それから、何度も何度も、ふたりは手を取り合い、死線を越えた。ながい四年だった。オウエンの母であるフーリャが王妃となり、権力を得だしたからか、それ以降はぱたりと刺客は止んだが、その間に、オウエンの配下のみならず、ユーシェンの側仕えも何人も死んだ。木の元の墓は、四年でずらりと並んだ。祈るユーシェンの隣に立ち、オウエンはじっと黙っていた。


 そして、今また、刺客が放たれた。王宮から――。


 ユーシェンは無念な気持ちで、目を閉じた。

 差し向けたのは、おそらく国王ではあるまい。国王こそ、ずっとオウエンに刺客を差し向けてきた張本人であり、ハオランの復権を望むものだと聞くからだ。

 ならば、差し向けたのは、王妃であるフーリャか――


「オウエンどの……」


 ユーシェンは言いながら、悲しく笑った。予想のかたちをとりながら、その笑みには、どこか確信めいたものを含んでいた。

 呪気や魔気は香る。さきの香り、それは、あの四年間襲ってきた呪者たちと同じ香だった。つまり、王家お抱えの呪者たち。


「そこまで――」


 フーリャの可能性もある。しかし、メイラの姫として誇り高きフーリャは、もはやカガルの呪者を使わないだろう。

 何よりユーシェンは、これをオウエンの「牽制」に他ならないと感じていた。

 かつて自分の命を狙った呪者を、今、自分は使う立場にある。――そう、兄王子に示すための。


 ファンシンの清めの式が、風に溶ける。

 空の色が変わった。晴れ間は、一転雲に隠れ、雲の隙間からさす光を、ユーシェンは腕組みし、見あげていた。

 雷鳴が響いていた。


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醒めない恋の目ざめかた 小槻みしろ/白崎ぼたん @tsuki_towa

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