第15話 道化

 そんなこんなで、花夜会は当日。


「はあ」


 まさか、花夜会にまた赴く日が来るとは思わなかった。呪いを受けたハオランと婚姻を結んだ以上、もう絶対人目には出ないとばかり思っていたのに、人生とはわからぬものだ。

 衣を見下ろし、嘆息する。ユーシェンが身にまとっているのは、女物の衣装である。顔にはごってりとした厚化粧が施されていた。我ながら奇天烈な姿だった。

 花夜会は、妻たちも同伴で来るが習わし。男妻も例にはもれずなのだが、必ず男妻は女の格好をさせられる。美しく着飾る花の中で、花のまねごとをさせられるのだ。

 妻の立派さも、夫の威信のひとつである。そして男妻は、嫁いだものの威信をそぐ役割を担っている。

 そして、ユーシェンの家にとっても、王家への服従の証でもあった。双方の威信を落とさねば、どちらにせよ首が飛ぶ。

 どうせだから、半端はせずにとことん奇天烈を貫くことにしているが――やはり、屈辱だ。

 しかし、こんな男を妻として、歩く夫の気持ちも浮かばれないだろう。そう思うことで、ユーシェンは、いつも気を確かにしている。実際に、ベイツィンには、じっと「不細工な、みっともない、なんとおいたわしい殿下」とずっと泣き睨みをされた。


 馬車に揺られながら、ハオランを見る。ハオランはすでに薄布をかぶり、馬車の外に耳を傾けていた。


「虫がないている。もうそのような時期か」

「暑くなってきましたからねえ」


 ははは、とやや俗な口調で、ハオランの言葉に応える。こういった振る舞いは形から入っておかねばならぬ。ハオランは、顔をこちらにむける。大した慰めにもならないが、今日のためにあつらえた美しい薄布からは、口元しか見えぬ。形のいい唇が薄く笑んだ。


「お互いひどい格好だな」

「そうですかあ?殿下も俺も今日はいっとう素敵ですよ」


 馬車は王宮から来ている。阿呆のふりをして、ユーシェンはハオランの言葉をふさいだ。ハオランはその様になにか、興にのったようで、ユーシェンにそっと手をのべてきた。ユーシェンの髪をひとふさ掬う。


「たしかに。今のそなたをくみしくも、楽しそうだな」


 これには、ユーシェンの方が固まった。石のようにこわばる表情筋をなんとか上に動かす。すぐにそっちに話を持っていくのをやめてくれ。それとも夫婦はこういうものなのか?


「はは、また冗談言っちゃって~……」

「戯れではない。ふふ、そなたはほんに初心よな」


 くいくいと髪を引っ張られて、ユーシェンは、ぎええと目をつむった。前から思っとったけど気持ち悪い言い方やめろ、俺にだって知識くらいあるわい。こういうのが嫌なんだっての!


「宴の前に、化粧をおとすわけにはいかぬが残念だ」


 化粧、どうもありがとう!ユーシェンは初めて、この首まで塗られた化粧に感謝した。


 

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