第11話 男妻

 夜。寝具を整えて、ユーシェンはハオランの訪れを待った。男妻として生きてきて十年、寝所に侍るは初めてだ。知識としてはあるが、実践は初めてだ。子供をつくるわけでもないのに、ハオランも物好きだ、というかやはり弄るつもりだな、これは。

 ため息をかみ殺し、待った。しかし、いっかな訪れない。やるならとっととやってくれという気持ちだが、一向に訪れない。

 ハオランがやってきたのは夜更けだった。梟の声を聴きながら、ユーシェンも寝転んであくびをしていたときだ。


「余裕だな?」


 音もなく入ってきて、上にのってきた。ユーシェンの胴体をまたいでのっているので、大腿の肉感が伝わる。

 げえっ最悪だ!という気持ちを抑え、「おまちいたしておりました」と伝える。ハオランは笑いながら、「よい」と言った。


「わかっている。嫌がる者をくみしくのは初めてだ」

「さようにございますか」


 寝具の合わせを割り、胸に触れられる。何もなかろうが男というものは胸に触れたいものか。先端に触れられて「うえ」と言いたくなる。


「オウエンにはどのように触れられた?」

「オウエンどのは、このようなことはしたことがございません」

「ほう?それで生娘のように震えているわけか」


 震えとらんわ、こんなもん糞を出し入れするようなもんだろうが。むしろそれは願望だろうな、とユーシェンはあきれる。男はどこでも女を求めるようだ。ユーシェンはもう寝てやりたいが、これも勤めと思うと、耐えるほかない。


「なら、肌を見せたことは?」

「ありません。寝所におかよいになったことがありませんので」

「ほう?」


 ハオランは、興味深そうに声を上げた。


「そうか、そうか。ならあれは惜しいことをしたな」

「はあ……」

「脱げ。あやつにも見せたことのない肌とやらを、見せてみよ」


 なるほど、オウエンへの対抗意識か。下らぬと思うが、まあその下らぬことが男には重要だったりするものな。おさがりでなくて安心したというところか。ユーシェンは、帯を解いて、体をさらした。

 ハオランは片胡坐をして、ユーシェンの肢体を眺めた。


「なるほど、これが男妻の体か」

「お見苦しいものを失礼いたします」

「なに。興味深いな……」


 ユーシェンの腹部には、男の象徴がない。そしてそれが、男妻たるもっともの証であった。

 男妻とは、政争のもとをそぐだけでなく、勢いさかんな家の意気をそぐためのものでもある。忠誠のため、去勢される。それには、夫が男のものを見て、萎えぬようにという夫のための生しい配慮もあったが……とにかく、男妻とは、男の象徴を奪われるのだ。

 男の象徴を持ったものに、この体を見られるのは、男としてなかなかの屈辱である。初めて味わうそれを、ユーシェンはどうにかやりすごしていた。


「屈辱か?」

「いえ。なんのことはございません」


 誰がこの方を明朗、清廉と呼び始めたか一度問い詰めたい。ハオランはユーシェンの喉からへそまでを、つっと指先でなぞった。


「面白いのう。おなごとも、Ωともそなたはちがう」

「そうにございますね」


 幼いころより象徴を落とされた故、ユーシェンの体には、男性的な発達がなく、少年のままだ。ユーシェンは目を閉じて、はやくこの時が終わることを望んだ。

 裸の腰を引き寄せられ、胸に顔をうずめられた。心臓の音を聞かれる。


「ふふ。そなたが恐怖を感じぬはまことのようだ」

「恐縮です」

「まったく、よいな。そなたはリンフォンとは違う」


 ユーシェンは、ハオランの視線がうずめられているのをいいことに、天を仰いだ。俺と、リンフォンどのなら、リンフォンどのしかいないだろうに。


「オウエンもおろかよな。そなたに跡もつけず、私の癖のたっぷりついたΩを選ぶのだから」


 なるほど、負け惜しみか。四つも下の弟相手に……哀れな気持ちになった。背にそっと手を置いてやる。正直、癖もなにも、これから過ごす年月の方が長いし、孕ませたものが勝ちだと思いますけど、まあ、俺も男だからわかりますよ。

 ハオランはそれは存外の行動だったようだ。ぴくりと身じろいだので、ユーシェンも出過ぎたと手をひっこめた。


「申し訳ございません」

「何。いま、ろくでもないことを考えたな?」


 言いながらも愉しげだ。まったく意味がわからぬが、こういった性癖の人間なのかもしれない。ユーシェンはじっとハオランの顔を見下ろす。夜闇に眼は薄赤い影をもって輝いていた。


「私を哀れと思うか?」


 偽りはできまい。ユーシェンは正直に応えることにした。


「おそれながら、男妻である自分を娶るのは愉快ではないと思います」

「そうか」


 ハオランはまたユーシェンの胸に顔をうずめた。抱きすくめる、という動きであったため、少し上体がそらされる。下腹部が、ハオランの胸近くにあたる。


「なら、そなたが私を満足させよ」


 体を押し倒されて、上に乗り掛かられた。ユーシェンを見下ろすハオランに、男の気配が立った。その目は、どこまでも愉しげだった。


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