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アオヤ

第1話

 『彩ちゃんてペンギンみたいだね』


 小学校低学年の頃、親友だと思っていた女の子に言われ私の幼心は傷ついた。


 ペンギンって可愛らしい見た目で愛嬌のある動きをする。


 でも…

私はレインコートみたいな服を好んで着ていて、ペタペタ歩く癖がある。

そしてビックリした時は目がまんまるになるそうだ。

その子はそんな私の姿をペンギンと重ね合わせたみたいだ。

決して悪気があってそんな事を言った訳では無いのだろうけど…

それからの私は自分に自信が持てなくなっていた。


 そんな私でも3歳から始めたピアノだけは自信があった。

もともとはピアノを弾いていると「彩はピアノが上手だね」って両親から褒められそれが嬉しくて一生懸命練習した。

そして自分に自信が持てなくなると『私にはピアノしかない』なんて思う様になり友達と遊ぶよりもピアノの練習に打ち込む様になっていく。


 練習の成果もあってか小学校高学年からは「彩ちゃんは将来、プロのピアニストになれるよ」なんて煽てられる事も度々あった。


 でも中学生になり他の小学校から上がって来た子達とピアノの話しをすると私より高度なレッスンを受けている子もいて…

『将来プロになれる』なんて夢は見事に打ち砕かれた。


 中学生になった私は吹奏楽部に入部し木琴を担当する事になった。

ある日部活の練習後、音楽室でピアノを弾いているとクラスメイトの青柳翔君から声をかけられる。

「ピアノを弾いている時の佐伯さんてピアノの妖精みたいだね」

それまで一度も言われた事無い言葉をかけられ私は嬉しくなってしまった。

「ねぇ〜 青柳君はどんな曲が好きなの?」

彼は目を上ずらせ少しだけ考える素振りを見せた後「昔、音楽の時間に合唱した『翼をください』が好きだよ」なんて目を輝かせながら答えてくれた。


 そんな彼の瞳が眩しくて恥ずかしくなってしまいまともに見れない。

「あの… 私がピアノを弾くから一緒に歌ってくれない?」

照れ隠しで言った言葉に彼は頷いてくれた。


 初めての演奏なのに何故か青柳君とは息がぴったりだった。

音楽室には私のピアノの音と青柳君の軽やかな声が重なった。

それがなんだか心地よくて…

つい嬉しくなって…

『いつまでもこうしていたい』

なんて想いで私はピアノを弾き続けた。

これがキッカケで私は青柳翔君に片想いする事になった。

青柳君は私のアイドルだ。


 ある日部活の休憩時間にボンヤリ音楽室の窓からグランドを眺めていた。

するとグランドを青柳君が陸上部員として走っている。

小学校6年生の時、彼は走り高跳びで県大会まで出場した優秀な選手だそうだ。

そんな彼を眺めているだけで私は何故か嬉しくなる。

青柳君は成績も常にクラスで2~3番で私は下の方。

同じクラスに居ても彼との接点は全く無くて、私はこっそり彼を応援する事しか出来なかった。

月日はあっという間に流れ、私は青柳君と話す事も殆んど無く一年生を終えた。

二年生でクラス替えが有りもう私のアイドルと離れ離れに成ると思っていたら…

居た。

また同じクラスに青柳君が居た。

神様は私の近くに居て私の事をしっかりと見守ってくれているのだ。

また同じクラスに私のアイドルが居る。

今度こそもっと青柳君と親しくなりたい。


 でも、私の心とは裏腹に親しくなるキッカケなんて全く無かった。

私と青柳君の関係はアイドリング(足踏み)状態だ。

これでいいの…?

きっとコレでいいんだ。

だって青柳君を見守っているだけで嬉しいから。

毎日、私の心は葛藤を繰り返している。

そんな私の心なんて知らない青柳君は仲間に囲まれ楽しそうに笑っていた。


 そんな心の葛藤に苦しんでいたある日…

その日の授業も終わり、私達は教室の掃除をしていた。

青柳君は雑巾で教室の床拭きを真面目にしている。

その時、我がクラスのフザケた委員長の太い眉毛のゲジが何か悪さをしたのだろうか?

生徒会書記のPT(ピーティ)に追いかけられて教室に飛び込んできた。

ゲジは屈んで床拭きをしていた青柳君の背中に低く屈んで隠れている。

なんだか青柳君は面倒くさそうな顔していた。

「暫くじっとしていろ」

声を潜めてゲジが呟く。

その時、何故か青柳君がニカッと笑った様な気がした。

そして青柳君の背中の方で「ブウ〜」という音がして…

ゲジは「うぁ〜」って声を上げて青柳君の背中辺りでピョンピョン跳ねた。

そして教室から飛び出しPTにまた追いかけられて行った。


 まるで『稲中卓球部』みたいな展開が目の前で起きた。

それは私のアイドル青柳君によって…

何かがガラガラと音を立てて崩れて行った。

「イメージが… 私のイメージが…」

目を見開いて私は叫んでしまった。

みんなは私を見て何かヒソヒソ話をしだした。

「ホラ、さっさと掃除を終わらせるぞ」

青柳君が声をかけたおかげでみんなの注目は青柳君に代わる。

「うるさいよ。スカンクにそんな指示される覚えは無い」

誰かが言いだしたおかげで、もう私が注目される事は無かった。

でも、でも…

青柳君はもう私のアイドルでは無くなった。

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