彼女は、そんな映画はないと嘆いた。
うびぞお
とまれ彼女は映画を語るKAC20251
彼女が顰めっ面でスマホを睨み付けていた。親指がせわしなく動いて、何か情報を探し求めているのが分かった。
いつものことだ。
ホラー映画マニアの彼女は何か怖い映画を探しているに違いない。
「……主人公が山中で迷って大きなお屋敷を見付けるんです」
彼女がふと呟いた。
「屋敷の前で、主人公は枝に串刺しにされたたくさんの鳥の雛とそれをつつくカラスを目の当たりにして、すっかり怯えてます」
彼女が呟くように話す映画のあらすじの通りに、わたしの脳内に雛の死骸に囲まれた古びた洋館が思い浮かぶ。重い観音開きの扉がギイっと開くと、甲高い鳴き声をあげて、ヒヨドリが何羽も何羽も飛び出してきて、主人公は驚き、腰を抜かす。
「屋敷の中には、数え切れない程の野鳥の剥製が並べられていて、その先には赤い絨毯が敷き詰められた階段があるんです。それはまるで雛壇のようで……」
わたしはごくりと唾を飲む。
何が起こるのか。
「その雛壇のような階段には、真っ赤な小鳥の雛の死骸が敷き詰められていて」
ぞくっとした。
しかし、そこで彼女は口を閉ざしてしまう。
長い睫毛に縁取られた彼女の黒い目は中空に浮いている。
わたしはごくりと唾を飲む。
話の先が楽しみなのか、彼女の横顔に魅せられているのか。
そして、いかほどか、しんと静まっていた部屋に彼女の声が落ちた。
「そこへっ雛を大量に殺されて怒りに満ちた親のトリの降臨んっ!!」
「なんなのよっ、その映画!?」
わたしの声に反応するように、しょげた顔の彼女が振り返った。
「だって、ないんですっ」
「へ?」
「ひなまつりのホラー映画が見付からないんです」
「じゃ、今の話は?」
「想像。そういう感じのひなまつりのホラー映画ないかなーって」
なんだよ、騙されたよ。そんな映画が本当にあると思っちゃった。
「良かった、また怖い映画見せられるかと思った」
「人形の映画ならいくらでもあるんですよ」
彼女はわたしに怖い映画を見せたがる悪癖がある。
「ひなまつりじゃないんでしょ」
「じゃ、男の子のお人形の映画と、女の子のお人形の映画、2本一緒に見ませんか?」
「それくらいなら付き合うわよ」
そして、
彼女は、そんな映画はないと嘆いた。 うびぞお @ubiubiubi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます