第3話
早朝、森の入口に仕掛けた探知魔法に妙なものが引っかかっていた。何やら大勢の人間がこちらに向かってくるらしい。ただ、それに気づいた頃には既に手遅れだった。もしや街の噂で聞いた王国軍だろうか。窓から外の様子をちらりと覗き見る。
「魔女よ、姿を現せ! そこにいるのはわかってるんだぞ!」
軍隊の領袖らしき人物が、こちらを威嚇してきた。メイシアは側で寝息を立てているルイスをそっと起こす。
「ルイス、起きなさい」
「すぴー……あ、おはようです、メイシアさん」
「いい、絶対に部屋から出るんじゃないわよ」
「え? それってどういう」
メイシアは窓から身を乗り出し、すたっと着地する。
「魔女は私よ。まさか、私を討伐できるなどと思い上がっているのではないでしょうね」
「思い上がっているのは貴様の方だ。この数相手に何ができると? 大人しく投降しろ!」
森を埋め尽くさんばかりの軍勢が、メイシアの根城を三百六十度囲い込むように配属されていた。
「はっ、袋の鼠とはこのことだな」
「ずいぶんと舐めた態度ね。その程度で私に勝てるとでも?」
「メイシアさん? 何が起こってるんですか?」
すると、家の中からルイスが現れた。
「ルイス下がって!」
すると、どこからかひゅるひゅると矢が飛んできて、ルイスの胸を貫いた。傷口から鮮血が溢れだす。
「ルイス!」
メイシアはルイスの方に走り出し、その身躯を抱き留めた。ルイスはショックで気を失っているようだ。
「隊長、魔女の手下を討伐しました!」
「よくやった、これで魔女も弱体化しただろう」
「貴様ら、絶対に許さない! 許さないわ!」
メイシアは憤怒の炎に身を焦がし、灼熱のごとき怒りを身にたたえた。
「インフェルノグラビティ!」
呪文を唱えると、大地が割れ、裂け目から溶岩が勢いよく噴出した。
「死ね! 死ね! 貴様ら全員死ねーー!!!」
次々と兵士は溶岩に飲まれ、阿鼻叫喚の様相を呈している。悲鳴だけが鳴り響く戦場。闘争の意思を持つ兵士はおらず、皆踊り狂うように逃避を計った。しかし、遁走できた兵士は一人たりともおらず、死体は骨一つ残らず、おしなべて焼き尽くされた。
三十分後、メイシアを囲む兵士は一人残らず消失していた。ふと、我に返る。
「そうだ、ルイスの治療を……」
ルイスの傷口に手を当てる。しかし、一切の反応がなかった。鼓動が停止していたのだ。
「ねえ、ルイス、嘘でしょ?」
ルイスは安らかな表情を浮かべていた。
「ねぇ、起きてよ、ルイス、ねぇ!」
いくら体を揺さぶっても反応がない。既に骸となってしまったようだ。それがわかっていても、なお受け入れられない。
「う……うぅ……うあぁ」
嗚咽が止まらない。涙が滂沱のように溢れてくる。放心状態に陥る。思考が停止しそうになった、その寸前ーー
「……そうだ、蘇生魔法」
使用者は命を落とす禁忌の秘術。これを使えば。そこまで考えて、はたと気づく。私は本当に、自分が死んでまでルイスを生かしたいのか。そこまでルイスのことを愛していたのか。私は思考の迷路に陥った。すわ古い記憶が蘇ってくる。あれは、私が人里を離れた日ーー
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