鬱工兵ピオニー

麝香連理

プロローグ

「本日もってプパロ砦、工兵中隊に配属されました。ピオニー二等兵です。」

 見様見真似の敬礼をする。

「あぁ、話は聞いてるよ。私は工兵中隊を任されているアーデン中尉だ。

 早速だが、これに着替えてくれ。部屋は皆と共用だから、仲良くね。」

 四十代程のアーデン中尉は少しの微笑を浮かべてサッサと視線を逸らした。

「は。」

 聞いてるかは分からないが、取りあえず返事はした。


 ピオニーにアーデン……聞いたことはない。



 キィ………

 耳に刺さるような音をたてる扉を開けると、学生の部室のようなムワッとした空気と共に、厳つい男達が俺を見た。

 照明がそこまで明るくないこともあり、迫力がプラスされている。

「本日配属されました!ピオニー二等兵です!」

 恐怖と緊張で声が上擦ってしまった。

「おお新人かーよろしくなー。」

 俺の言葉に警戒を解いたようで、左側の人達は気さくそうに顔を綻ばせ、他の人達も手を上げたり口笛を鳴らすなど、歓迎ムードだ。

 一方右側の少しの人達は頭を抱えている。

 ……一体どうしたんだ?

「ピオニー、お前の荷物はここな。」

 一人が簡素な箱を持ってきた。

「ここに入れれば良いんですか?」

 ダンボールをテープでぐるぐる巻きにして補強したような使い古された箱だ。

「おう、そうだぞー。お前は幸運だなぁ。」

「何がですか?」

「この箱はこの隊で唯一生きて退役出来た男が使ってた奴なんだぜ?俺らはこの幸運の箱をどんな奴が使うか賭けてたのさ。」

 その男は右側にいた人達を親指で指した。

「なるほど。」


「くっそ!!!!!!今度こそ可愛い女の子が来てくれると思ったのに!!!!!!」

「俺達の癒しはどこにあるんだぁぁぁぁぁ!!!」

 屈強な男達が結構本気で涙を流していた。


「ま、あそこの一部変わってる奴らとも仲良くしてやってくれ。」

「な、なるほどー。」

 雰囲気的には良好で一安心だ。







 先輩達と仕事を教わりながら談笑をしていると、砦に取り付けられているアラームが鳴り響く。

「お勤めだ、行くぞ!」

「はい!」

 俺はこちらのクレイ軍曹の部隊に入ることになった。仕事は主に前線の陣地や掩蔽物の作成を担当する。

 支給されたヘルメットを閉め、シャベルを担いで初陣に出た。




「もっと早くしろ!敵がそこまで来てるぞ!」

「はい!」

 塹壕を深くするため腕を振る。




「もっときつく縛れ!」

「はい!」

 騎兵を防ぐための拒馬を紐で構築する。






「敵が来たぞー!!!!!」


 誰かの怒号に顔を上げる。

「手を止めるな!最後の最後までやれることをやれ!」

「は、はい!」

 俺は最後の一結びをしてキリの良いところで前線の塹壕に飛び降りた。


 瞬間始まる銃器による発砲。


 これが俺の新しい日常となる。

 その事実を身をもって味わうことになる。

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