第14話 ヤマト航空女子寮の二人が転職?

ヤマト航空女子寮の二人が転職?


(服部って、いったいどんな人間なんだろう?) 直弥は心の中で疑問を抱きながら、彼を観察していた。


正直なところ、服部は「陰キャのくせに地位を利用してしゃしゃり出る下品で気持ち悪いオヤジ」と言ったところだろう。


その外見や仕草は、まるでハエやムカデを擬人化したかのようで、メガネを無理に掛けた顔からはオヤジ臭スプレーが漂っている。


仕事や他人のゴシップにしか興味を示さない、その滑舌の悪さや、まるでカラスが鳴くような耳障りな声に直弥はうんざりしていた。


そんな思いを胸に、夕暮れの地下鉄通路を足早に歩いて高輪寮に到着した直弥。


しかし、普段の静かな寮とは違い、今日は少し違和感を覚えた。


ダイニング・キッチンには、見慣れない若い女性たちが二人、座っていた。


普段ここに来るのは、昼食時に掃除をしている60代のババアだけだったので、直弥はすぐにその空気の違いに驚いた。


彼女たちは、ヤマト航空女子寮の女の子二人、アッコちゃんと莉奈ちゃんだ。


アッコちゃんが「主」で、莉奈ちゃんはその「従」という感じの関係だった。


二人は商社の面接を受けに行ったばかりだと言って、履歴書を直弥たちに見せてくれた。


履歴書には「趣味」の欄があったが、アッコちゃんはそこに「カラオケ」「音楽鑑賞」「料理」「旅行」と書いていた。


その後の話が直弥を驚かせた。


面接で服部から、

「一曲歌ってみて」

とリクエストされたアッコちゃんは、渋々歌ってみたのだが、その後、服部からは、

「可愛いポーズをしてみて」

と頼まれたという。


直弥が興味本位でその話を聞くと、アッコちゃんは手のひらを頬に当てて照れたような笑みを浮かべてその場面を再現した。


当日それを見た服部は、

「採用です」

と言ったとのことだ。


「私が面接する場合、可愛い子には即採用だから」 と服部は嬉しそうに言った。


一方で、莉奈ちゃんも似たような目に遭っていた。


服部から、

「可愛いポーズをしてみて」

と言われ、莉奈ちゃんは腕を抱きかかえて怒ったような顔を作ったら、服部は大喜びで

「採用」 と決定したという。


直弥がその話を聞くと、思わずつぶやいた。

「ウェー、気持ち悪いやつだなぁ。俺ならその場でテーブルでも椅子でもひっくり返して帰るよ」


「男には絶対歌わせたり可愛い顔をさせたりしないだろう」

と俺が言うと、須賀は、

「いや、もし自分が女だったら、の話だよ」

と返した。


直弥は少し考え込みながらも言った。

「でも、彼ね、すごく人を見てるよ。言っても大丈夫な女性と、言っちゃいけない女性の区別をつけてるみたい」


「なんでそんなことができるんだ?」

と須賀が不思議そうに聞くと、直弥は説明し始めた。


「彼は長く会社にいて、仕事もかなりできるんだよ。徹夜で残業して、当時の上司に重用されてたらしいから、会社内での立場はかなり強いんだ」


「そういう人って、よくいるよね」

とアッコちゃんが呟いた。


「服部って、他の社員からもよく頼りにされてるって言われるんだよ。みんな、彼に聞いてみないと分からないことが多いんだって」

と直弥が続けて言った。


さらに、直弥は服部について補足した。

「柳沢さんというちょっとチャラい社員がいるけど、彼曰く、服部はこの会社で定着している業務のかなりの部分を築いたらしいんだ。その時代からの生き残りだから、今でも会社を我が物のように思っているんじゃないかって」


「仕事は本当にできるんだな、あいつ」

と自分が言うと、直弥は少し考えながら、

「プレゼンテーション資料を作るのが特に得意なんだよ。すごくきれいに、短時間で作るんだ」

と言った。


「ふーん」

と自分は声を漏らし、直弥が続ける。

「でも、その資料にはちょっと微妙な嘘が含まれてるんだ。正確には嘘じゃないかもしれないけど、見栄えを良くするために、いろいろ切り捨てている感じだな。ビジネス提案書とか、本当にきれいに作ってたよ」


直弥から聞いた情報を頭の中で整理した直弥は、服部がその風貌とは裏腹に、仕事上での立ち振る舞いがうまく、要領よく仕事をこなしている人物だと理解した。 その知能指数はおそらく一二〇くらいだろう、と思われた。




服部の出身地と出身大学


「世の中、頭の良い奴が多いよなぁ……」

須賀が少し困ったように言った。 「数で数えたら、相当な数になりそうだな。俺はそこには含まれてないけどな」


「頭が良い奴なんて、今やありふれていて珍しくもないさ。だいたい、人間がちょっと賢くたって、それだけで利口にはなれないってことくらい、みんな分かってるだろ?」


俺は日頃感じる素朴な思いを言った。

「でも、頭が良ければ出世するんだろ?」


須賀は少し目を輝かせながら言う。

「そうとも限らないだろ」


俺は肩をすくめて言った。

「IQテストなんて、結局のところ物差しの一つに過ぎないんだよ。」


「EQとかもあるしね。」

アッコちゃんがにこやかに口を挟んだが、俺はその言葉の意味がよく分からなかった。


「何でも評価基準になるんだよ」

僕はちょっと冗談めかして言ってみた。 「例えばさ、鼻毛が長ければ長いほどモテる世界基準ができたらどうする?」


莉奈がすぐさま反応して、声をあげた。

「鼻毛は絶対に許せない!」


「ちなみに、服部の出身大学って知ってる?」

「服部?」

直弥が言った。 「専攻まではわからないけど、〇〇大学だって聞いたよ」

それは東大や東工大ほどの偏差値ではなかったけれど、日本人なら誰でも名前を聞いたことがある理工系の私立大学で、キャンパスは都心にある。


「服部は埼玉の住宅密集地で育ったらしいんだ」 直弥がさらに続けて教えてくれたが、高輪寮にいるのは、どちらかと言うと地方出身の人たちだから、埼玉県の市の名前を聞いたところでピンとこなかった。


さて、商社内を見渡せば、服部よりも偏差値の高い大学を出た人はたくさんいる。


自分が卒業した場所を大切に思う気持ちもわからなくはないけど、俺にはちょっと不思議に感じられた。


「自分が掴んでいるのはそのくらいの情報だけど、新しいことが分かればまた共有しますよ」

と直弥は言った。


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