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「紹介するね。まずは私の弟で高校三年生のスズ。もう気付いてると思うけど柴田くんが買って来てくれたケーキ屋さんでバイトしてるの」


「ケーキ屋じゃなくて喫茶店。後、スズじゃなくて雀だから」


「あ、あのっ、さっきはすいませんでした!俺別に君に喧嘩売ろうとして笑ったんじゃなくて、その…っ」


「ああ、そう言うのいいから。別に気にしてないし、どうせ俺の接客態度が気になったんでしょう。よく言われるんだよね、心が篭ってないとか棒読みとか」


「……すいません。俺も棒読みって思いました」


「でしょう。だから気にしなくていいから。それとアンタの方が年上なんだから敬語とかやめてよ。姉貴の弟だからって遠慮しなくていいから」


「あ、ありがとう…。じゃあお言葉に甘えてスズくんって呼んでもいい?」


「スズでいいよ、うちのもん全員そう呼んでるし」




……あれ?




予想していたの違う。

もっとオラオラ系の尖った子だと思ってたが、先程までの喧嘩が嘘のように話してみると案外……いや、かなり親しみ易い子だった。




「スズは料理が得意で、うちでは料理担当なんだよね」


「へぇ、そうなんだ」


「姉貴達がやらねぇからだろう」


「適材適所だよ。ほら、私は掃除担当だし」


「ああ、ダークマターだもんな姉貴の料理」


「しゅ、修行中って言ってよねもう!」




へぇ、見吉さんって料理苦手なんだ。


完全無欠の見吉さんにも苦手なものってあるんだ。




「ダークマターの修行して何作ろうとしてんだよ?毒?兵器?」


「人を殺人犯扱いしないでよ!」




新しい発見に耳をダンボにして二人の会話を聞いていた。




「それでこの子が妹のハナちゃん。スズと同じ高校の二年生なの」


「よ、宜しくね、ハナちゃ…」




名前を呼ぼうとした瞬間、人一人殺せるんじゃないかってくらいの眼光で睨まれた。




「ヒィィッ‼︎」


「もうハナちゃんってば照れ屋さんなんだから」




てっ、照れ屋ぁぁああああ!?


いやいや、これ絶対照れてるんじゃないよ!


寧ろ殺しに掛かって来てるから!




「ハナ、姉貴の友達だぞ」


「………チッ」




こっわ!!


舌打ちバリバリ聞こえてるからね!


てか、見吉さんの友達だから何!?


友達じゃなかったら手加減しねぇからなこの野郎ってこと!?




「柴田くんごめんね。悪気があるわけじゃないんだけど、ハナちゃんは昔から人見知りが激しくて初対面の人にはいつもこんな感じなの。徐々に慣れると思うからもう少し待っててあげて」


「も、勿論だよっ」




寧ろ怖くて近付けねぇよ!




「因みにコイツはハナじゃなくて花依ね。まあ、適当に呼んでやってよ」


「う、うん…」


「チッ」




ヒェェェェ!!


寿命が縮むぅぅぅ!!




「それで、アンタの名前は?」


「へ?あ、ごめんっ。えっとー……柴田健です。年は見吉さんと同い年で大学の友達です。今回俺の事情で急遽居候させてもらうことになって皆さんに迷惑をお掛けしてしまってすいません。アパートの改築が終わり次第出て行きますのでそれまでの間はどうぞ宜しくお願いします」






控えめな拍手とぶっきらぼうだけど温かい言葉、そして今日何度目かの舌打ちを浴びる中、俺は不安や緊張とは違う何かを感じていた。






期待と不安、そして少しの胸騒ぎ。






「これから宜しくね、柴田くん」


「……宜しく、見吉さん」






そんな中、誰もが憧れる高嶺の花であるクイーンとそんな彼女のペットと蔑まれる俺の物語が、今ここに始まろうとしていた。

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